えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

『検察側の罪人』超々ネタバレギリギリの感想

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

 

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kensatsugawa-movie.jp

 

雫井脩介のミステリー小説を映画化。都内で発生した老夫婦刺殺事件。それを担当するのは東京地検刑事部のエリート検事・最上と、駆け出しの検事・沖野。容疑者として浮かび上がってきた一人にかつて未解決事件の重要容疑者であった松倉重生がいたの知った最上は動揺する。それは学生時代に彼が思いを寄せていた女性を殺害した男だったからだ。沖野の執拗な取り調べにもかかわらず、否認を続ける松倉にやがて最上は越えてはいけない一線を超える。

 

 この映画の主題は「正義」だ。それは冒頭のシーンで宣言されている。

 

「事実に基づいた強固なストーリー」だと。正義を遂行するために必要なモノだ。

 

しかし、それは一旦脇に置いて、これは何を描いたドラマなのかを先に書く。

 

最上の親友で代議士でもある丹野が、-- ちなみにこの二人は親友というだけではなく一人の女性に恋をしていたが、それも亡くなり愛の無い結婚をしたというところでも共通している。-- 死んでしまう理由は政権に反旗を翻したためでもあり、丹野の妻が人種差別主義者でもあり、それを支援しているのがホテル事業者なので、どう見ても現在の安倍政権とアパホテルを想起するので、そこから導きだされるのは倫理を否定する歴史修正主義の要素しかない。

 

そしてインパール作戦。1944年に実行された大規模な軍事行動なのにもかかわらず補給を軽視した無謀というべき、かつ大量の犠牲者が発生すると予想されていながらも作戦を遂行したのは恐るべき楽観性と無責任にあった。非倫理的だ。

 

また、最上が松倉に老夫婦刺殺事件に対しての証拠が無いにもかからわらず、捜査を隠ぺい、そして誘導ゆく様は事実を追い求める姿からはほど遠い。

 

この三つから分かるのは「事実に基づかない軟弱なストーリー」にしかならないに決まっている。それらがエリートが行っている、ということは、つまり「反倫理的行為」を指しているのは間違いない。

 

まとめると、この映画はミステリーでもサスペンスでもなく、「倫理の塊であるはずべきのエリートが私事で反倫理に堕ちる様」を描くドラマだということだ。

 

そうすれば、沖野は最上に対する位置づけとして、事実を重視する「倫理」の役割になりうるし、それを補佐する橘は沖野の行動を裏付ける役割にもなってゆく。難関であろう試験を通ってのアノ行為なのだから。

 

そして、最上に協力的な諏訪部の役割も見えてくる。さしづめゲーテファウストにおけるメフィストフェレスが、あの男の位置になる。

 

というよりも原田眞人監督は明らかに現代の『ファウスト』としてコレを描いている。いつも海外での公開を念頭に置いている原田監督らしいところではある。

 

これらを踏まえて主題に入る。大事な二点は。「正義(倫理)が必ずしも問題を解決できないこと」という主張と「正義で正義を切ることはできるのか?」の問いが結末あたりに現れることだ。前者は映画を観ればよいので省くが、後者は少し説明が必要だろう。

 

それはあまりにも唐突に、ラストで最上は沖野に欠けて(知らない)いた事実のピースを提示させるからだ。そうした最上の理由は分かる。最上の祖父はインパール作戦からの生存者であり、後にその事実(?)を書いた本も出す。それが、どうやって生き残ったのかに描写され、最上の回想(?)と象徴として現れるのが、「新宿〇〇〇」の看板なのだが、最上が沖野に事実のピースを提示させた後にもコレが現れる。つまり事実を提示して後に沖野に対して「どちらが正しかったのか?」の問いを迫っている。あの過酷な作戦で一兵卒が休息程度では生き残れるはずもなく、恐らく反倫理的行為もしたであろう最上の祖父の行為を看板で象徴し、そうしなければ当然に死んでいただろう、そして生き残ったがこそ軍の反倫理的行為も本にできたのだ。というのを暗示して映画で描かれた最上の反倫理的行為も「正義」だと導く。もちろん沖野も正義を主張しているので「正義で正義を切れるのか?」という韓非子の矛盾を思い出す落としどころで、だから沖野はラストで……。

 

原田監督作品はジャーナリスティックな視点をいつも自作に乗せてくる。例えば、前作関ヶ原でも家康に「儂が三成を作ってやった」みたいな台詞で、いわゆる劇場型政治、つまりポピュリズムを乗せていた。なのだが、今作はこの拗らせ具合がものスゴイ。監督全作品を知っている訳ではないが、おそらくこの映画がもっともスゴイのではないのか?

 

ないのか?なのだが、それを良い塩梅に抑えているのが主演の木村拓哉の存在感だ。ヒット作であり代表作でもあるHEROと同じ職業である話題性も含みながら原田監督のスゴイぶりを演技者として幅はないが木村拓哉のスターとしての存在感がそれを押しとどめている。それが通常なら「観客に優しくない」原田作品が二宮和也も安定した演技もあって、いつもの監督作より増して重厚な雰囲気をまとった結果となった。

 

しかし、本作は怪作だ。ぶっちゃけ! 入れ過ぎ、盛り込み過ぎだからだ。

 


映画『検察側の罪人』予告

 

 

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