ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
ノルウェーのクライムドラマ『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』をアメリカを舞台にリメイク。雪深い静かな田舎町で除雪作業員をしているネルズ・コックスマンは模範市民賞を受賞するほど真面目で穏やかな人間だった。しかし、一人息子が麻薬の過剰摂取で死亡する。その事実を信じられないネルズは、あるきっかけで得た情報でそれが犯罪組織バイキングによるものだと知り、組織の人間を1人づつと殺していく。しかし、ネルズの復讐劇を敵対する麻薬組織によるものと勘違いしたバイキングはそのボスの息子を殺してしまい。予想外の泥沼へとなってゆく。
ハンス・ペテル・モランド監督
◆はじめに
『スノー・ロワイヤル』、いつものリーアム・ニーソンのアクション映画かと思いきや、終わってみれば脱力クライムアクションコメディといった感じだった。
脱力というのは簡単に云えば、盛り上がりそうな部分をあえて外して、どーでもいいところを長く見せる演出しているからだ。 だから、クライムでもアクションでもコメディでもない奇妙な感覚になってしまう。
この映画は『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』をアメリカ版としてモランド監督自身が撮った作品だ。だから内容は変わってなくて、ディテールのみが変わる -- 例えば、金網簀巻きを実際にやったり、犬の💩を見せなかったり -- 等々、市川崑の『ビルマの竪琴』や『犬神家の一族』のようなセルフリメイクではよくありがちなモノなので当初の感想もそんな感じにしかならなかったのだが、実は『ファイティング・』がノルウェー映画で公開年が2014年と知るとなると、この作品の意味もテーマも考え直してしまうことになった。それでセルフリメイクである『スノー・』のテーマもハッキリと見えるようになる。それにはノルウェーに起こったある事件に言及する必要がある。
◆ノルウェー連続テロ事件
ノルウェー連続テロ事件とは2011年に起った首都のオスロ政府庁舎爆破事件とウトヤ島銃乱射事件のことだ。極右思想をもつ男が国の移民政策による抗議行動で政府庁舎爆破とウトヤ島で開かれていたノルウェー労働党青年部の集会に参加していた若者69人を銃で射殺した単独犯行のテロ事件を指す。ウトヤ島については『7月22日 』と『ウトヤ島、7月22日』で映画化もされている。-- 自分は2作とも未観劇。
自分はこうした問題には疎いので、専門的な言及はできないので、素人なりの無責任で言うなら、西欧諸国での移民先社会の文化・価値観への統合の推奨をしない多文化主義を前提とした政策に暗い陰を落としたことかもしれない。
そして、この事件の衝撃の余波がまだ収まっていない、およそ3年後に公開されたのが『ファイティング・』だ。
つまりこの一見、脱力といわれる部分が実は先住民と移民との軋轢を扱っているが故のデリケートさを娯楽として消化させる手法として選択して使っているのが見えてくる。ーー ノルウェー連続テロ事件では警察の対応に問題があったとされたが、『ファイテング・』(そして『スノー・』も)でも警察は何も出来ない存在として描かれている。
また、移民と先住との軋轢を狂詩曲風に描くことでクールな視点が保たれているところからも、社会問題を作中に入れてくる北欧ミステリーらしいところでもある。
◆スノー・ロワイヤル
こうしてみると『スノー・』も『ファイテング・』と同じ先住民と移民との軋轢を描いているのは同じだ。なるほど、これが「タランティーノが『96時間』を撮ったらこうなる」というのも分かる気がする。タランティーノは『ヘイトフル・エイト』を撮っているし……。
ただ物語的には確かに『スノー・』は『ファイテング・』をなぞっているのだが、結末は違う。先住民と移民との軋轢を描いた後に生き残った(この土地に居場所がない)のは、『ファイテング・』だと移民側なのだが、『スノー・』だと先住民側になっている。それはラストシーンで『ファイテング・』で残っているのは移民側2人であるのに対して『スノー・』だと先住民と準先住民2人だからだ。-- ヒント:made in china -- おそらくノルウェーとアメリカの歴史的な違いがそうさせているのだろう。
そうゆう意味ではただのセルフリメイクではなく、この2作は鏡像関係にあるといっても良いのかもしれない。
特にいい締めの言葉もないのでこのまま終わります。
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