えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

【ネタバレ無 (?)】分断と怒りの寓話『パラサイト 半地下の家族』

お題「最近見た映画」

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

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www.imdb.com

 

キム一家は家族全員が失業中で、半地下でその日暮らしの貧しい生活を送っていた。そんなある日、長男ギウが友人の代わりにIT企業のCEOであるパク・ドンイク氏の豪邸へ家庭教師の面接を受けに行くことに。パク婦人・ヨジュンに気に入られて採用されて、そして妹ギジョンも、兄に続いて豪邸に足を踏み入れる。苦しさから抜け出せて、つかの間の幸せに浸るキム一家だったが、やがて想像を超える悲劇へと加速していく……。

ポン・ジュノ監督

 

注意:できる限り内容への言及は避けますが、抵触しそうな可能性もあるので、純粋にこの映画を楽しみたい方には、ご遠慮くださるようお願いします。そして空白の部分は反転してお読み下さい。

 

◆はじめに

『パラサイト』はカンヌ国際映画祭パルムドール受賞も納得の一作だ。舞台が主に「家」なので段差や奥行き利用した上下左右自由な画づくりと演出で豊かな表現空間を作り上げているし、ポン監督のミューズであるソン・ガンホは相変わらず素晴らしいが、今作では娘役のパク・ソダムも存在感を放っていて、題材にも関わらず実に品が良い。

 

とまぁ。この作品は何から何まで自分のガラではないのだが、今回はソン・ガンホが演じるキム・ギテクがつぶやく「計画しても計画どおりにはいかない」という無計画の部分について書いておこうと考えた。ここを抑えないと、この作品の毒とクライマックスが分かりにくいと思ったからでもある。

 

◆無計画

発端は、1997年7月よりタイを中心に始まった、アジア各国の急激な通貨下落(減価)現象、いわゆるアジア通貨危機が1997年12月で韓国にもおよび国家破綻の危機に襲わた際に国際通貨基金(IMF)に緊急支援を要請した。

 

IMFと韓国との合意に交わされたのは、「財政再建」「金融機関のリストラと構造改革」「通商障壁の自由化」「外国資本投資の自由化」「企業ガバナンスの透明化」「労働市場改革」で、具体的には何が行われたかといえば、企業のリストラと派遣労働制の導入、海外企業の韓国市場の参入だ。そして、その時に政府はいわゆる韓国財閥の解体を行わなかった。それで社会状況がどうなったかったといえば、財力あったおかげで倒産しなかった少数の大企業による産業の寡占化と外国資本の参入、そして派遣労働制の導入で、倒産等で雇用を失われた労働者たちが、生活のために非正規労働者として働くしかない結果が現出した。

 

寡占化状態なので、非正規労働者が正規労働者として格上げされて雇用されるチャンスは少なく、派遣労働とは労働を切り売りもできるので、大企業の収益アップのためにさらに賃金は上がらず非正規労働者はいいように使われる。

 

そして安定的な財源でもあった中間層が破壊されているので税収を公的扶助(福祉等)には回しにくい状態になっており、さらに派遣労働制をうま味を知った大企業がそれを手放さないのはすぐに分かるので、これが改善される見通しは少ない。

 

これが、キム・ギテクが言っていた「無計画」の本質でもある。ギテクがああなったのはそんな歴史的背景で打ちのめされているのであって、立ち上がろうとしても周りの状況が絶対にそうさせないようにシステムが出来上がっていると体感しているからでもあり、そして、それとは裏腹に自分もそうした状況が無くなればそこから抜け出せると考えてもいるからだ。

 

そして、キム一家が寄生する家の持ち主であるIT企業のCEOであるパク・ドンイクが富者になったのも、ここからだ。アメリカが1980年代以降、パソコンの発達によって膨大な雇用を確保できたという先例にならい、韓国も情報先端化に国内経済の盛り上がりを託すようになった。1999年3月に時の政権は「サイバーコリア21(第2次情報化促進基本計画)を発表。単なる夢や希望を語るのではなく、具体的な数値を示して国土の隅々まで情報インフラの整備に最善を尽くすことを明らかにした。

 

そうして現出したのが韓国のインターネット特需であり、誕生したのがドンイクのようなIT長者でもある。そして、おそらくドンイクのような人物は自分の才覚で富者になったと多くの人も考えているだろう。パク・ドンイク家の地下で生活していた男が「リスペクト!」と叫ぶのもそんな背景がある。

 

だが、ここまでで気がついた人もいるだろうが、この社会的変動は10年以内に起こっている、つまり、ギテクとドンイクの明暗を分けたのは才覚や努力よりも、その時の社会状況。早い話が「運」でしかないのだ。ギテクとドンイクは逆になっていた可能性もあるのだ。

 

そして、その「運」とは時の政府・政権の都合によって生まれたものに過ぎないのだ。

 

◆インディアン

それではパク一家はキム一家のような貧者を、「どう見ているのか?」といえば、「見ないふりをしている」と言うしかない描写をこの作品ではしている。どうしてそう解るのかといえばドンイクの息子であるダソンがインディアンの恰好をしているからだ。

 

インディアンことネイティブ・アメリカンへの対応は時の政府による虐殺、同化政策、生活に適さない居住地への強制的な移動などの紆余曲折があって、現代ではそのアイデンティティーは破壊されているにも関わらす最終的にはアメリカ人とっては、あまり語りたくない語られない「隠された存在」となってしまった。つまり、半地下のキム一家の様な人々とネイティブ・アメリカンを重ねているのだ。それでこの作品ではインディアンを象徴として出している。

 

だが、いくら見えない振りをしても、どうしても「臭い」は嗅いでしまう。だからクライマックスで、その「臭い」嫌ったドンイクをギテクが殺してしまうのは「俺達の存在は知っているはずなのに無視するな!」という映画からのメッセージなのだ。

 

◆おわりに

締めとして、確かにとても面白く作っているし、事実面白いのだけれども、年末年始に働いて、やっと周回遅れの正月休みになったかと思えば、風邪で体調を崩してしまった後に思い起こせば、やっぱり、この作品は自分のガラじゃないと思ってしまう。

 

それに、これを面白く観てしまうということは映画『ジョーカー』でチャップリンの『モダン・タイムス』で笑っている輩と同じだと。言っている気がするのはひねくれ過ぎた見方かな?

 

参考

先住民迫害の過去から目をそらすアメリカは変わるのか|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 


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