ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
姉・未咲の葬儀に参列した岸辺野裕里は、未咲の娘・鮎美から、未咲宛ての同窓会の案内状と未咲が鮎美に遺した手紙の存在を告げられる。姉の死を知らせるため同窓会へ行く裕里だったが、同窓仲間には学校の人気者だった姉と勘違いされてしまう。そこで初恋の相手・乙坂鏡史郎と再会して「君にまだずっと恋していると言ったら信じますか?」とメールで告げられ、それを夫に見られてスマホを壊されたきっかけに、未咲のふりをしたまま彼と文通することに。また、そのすれ違いで手紙が鮎美のもとへ届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎と未咲、そして裕里の学生時代の淡い初恋の思い出を語り合いはじめる。
岩井俊二監督
いきなりだが、「萌え」とは何だろう?
すぐに連想するのは「カワイイ」であり、マンガやアニメの二次元美少女キャラだろう。しかし、「萌え」は単にカワイイだけではないのはニュアンスとして分かるし、二次元美少女キャラはあれはあれで「男の娘」は当然として「タイ焼きを盗んで走り出す」萌えや「浮気した男を殺して、浮気相手の女も殺してから、その腹を切り開いて覗く」萌えもあるとういう複雑多岐にわたっていて、結構イメージがつかみにくい。
そこで、ここでの「萌え」は単純に「ある人や物に対して深い想い込みを抱く事」とここでは定義をする。
その「萌え」を最初に使ったのは『野菊の如き君なりき』を撮った木下恵介監督であるのは間違いないだろう。ちなみに木下恵介はこれとは別に『お嬢さん乾杯!』や『カルメン故郷に帰る』は日本3台「萌え」映画だと自分は考えているし、これに「先生萌え」の『二十四の瞳』を加えることもできる。
それでは、何を伝えたいのかと云えば、岩井俊二監督は、全ての作品において「萌え」をやってきたのではないのか?と、いう気持ちが自分の中にあるからだ。そのモチーフも架空の街(スワロウテイル)だったり、架空の歌手(リリイ・シュシュのすべて)とかもあったりはするのだが、一番のモチーフはやはり女優だろう。そして、岩井俊二が描く「萌え」は今まで、どこか閉じた感じが自分にはあった。愛でる感覚というか、そんな感じだ。
なので、今作も広瀬すずと森七菜で愛でて「萌え」を表現しようとするのだろうと予想していたら……
まさか福山雅治に「萌え」があるとは思わなかった。
もちろん、広瀬すずと森七菜にも萌えるし、松たか子にも少しはあるが、あくまでも抑えであってメインは福山雅治だ。
この映画は全編にわたって福山雅治に「萌え」る映画なのだ。
今作では1995年の『Love Letter』コンビだった豊川悦司や中山美穂も出演しているのだが、それも福山雅治を萌えさせる役割としてあたえられている。
ちなみに庵野秀明は八甲田山のテーマ曲をガンガンと大音量で流す事とスマホを壊すためだけの役割です。
そして、今作ではそれ以外にもちょっとした見せ場がある。
何せ神木隆之介は高校生らしからぬ前髪をセットしているし、その喋り方も福山雅治に寄せてきて演じている。これが、岩井監督の指示なのか、それとも神木自身の判断なのかは分からないが、違和感なく高校生時代の福山雅治を神木隆之介が演じている。
ドラマは前述した『野菊の如き君なりき』と同じように初恋の回想なのだが、ここでの捻りは『Love Letter』以降の閉じたイメージと違って開いた感じで終わらせているのも今までとはちょっと違う。「萌え」が福山雅治になるだけで、こんなに変わるものかと別の意味でちょっとジンとしてしまった。
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