ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
実際に存在する心霊スポットを題材にした映画化。臨床心理士の森田奏の周辺で奇妙な出来事が次々と起こりだし、その全てに共通するキーワードとして、心霊スポットとして知られる「犬鳴トンネル」が浮上する。そこへ行ったある女性の死を皮切りに、不可解な死がはじまり、奏の二人の弟・悠真と健太も行方不明となり、母・綾乃もおかしくなる。すべては幻の犬鳴村にあると感じた奏は連続するこの出来事の真相を突き止めるため、犬鳴トンネルへと向かう……。
清水崇監督
注意:できる限り内容への言及は避けますが、抵触しそうな可能性もあるので、純粋にこの映画を楽しみたい方には、ご遠慮くださるようお願いします。あと空白の部分は反転してお読み下さい。
いきなり私事からはじめると、自分の映画館事情はこうなる。
まずは、一番近いのは歩いて30分ぐらいのシネコン。ここは何故かアニメが多い。
そして、次は車で一時間くらいの通勤途中にあるシネコン。ここはIMAXや4DXがあり、自分は行き帰りによく使う。
三番目は仕事の出先などでアート系を上映する映画館があったらそれを観る。
四番目は自宅から車で片道2時間ぐらいで職場からは真逆の方向にあるシネコン。
『犬鳴村』は四番目のシネコンで上映されていた。だから、通常こうした場合は、あきらめてレンタルか配信待ちをするのが常なのだが、今回は違った。純然たるホラーのはずなのに、どうやら珍品らしい噂を感じたのだ。何せネットの評判がああなので……具体的には、自分の頭のなかでこう受け止めたのだ。
「怖い怖いと思っていたら、感動で胸がいっぱいです」
「もう、最後は泣いちゃいました」
「(全員で)犬鳴村サイコー!」
という謎電波を受信した(?)ので、わざわざ片道2時間かけて真逆のシネコンへと足を運んで観てきたのだが……
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どうやら電波の受信状況が悪かったようだ。
……珍品ではなかった。
とは、いってもホラーとして怖くないわけではなくて、前半は結構に怖い。
特に、ある恐怖描写はJホラーにもまだまだ描くべき伸びしろがあるのだなと感心もした。ただ、後半の犬鳴村の呪いの成り立ちを解明する件から恐怖描写が減速していったのも、これまた確か。まさに「幽霊の正体見たり枯れ尾花」になってしまった。
でも、どうやらそれは意図的なモノらしいのは感じた。簡単にいえば、Jホラーと怪談のジャンルミックスをしようとしているらしいからだ。そこでJホラーと怪談の違いといえば……
Jホラー:基本は映画内でのルール(禁忌)を破った者には誰であろうと理不尽に死ぬ。
怪談:基本は過去にある物に対して酷いことをした人・一族は何世代であろうと恨まれる。
異論もあるのだろうが、そんなところだ。
『犬鳴村』このふたつをミックスしようとしているのだ。しかし、怖さの点では結びつくかもしれないが、実は質の点では、これは水と油だ。なぜなら「理不尽」と「因果応報」は真逆だからだ。その真逆をミックスさせるために今作は別の奇策をやっている。
SFなっているんです。この恐怖映画は。
実際、そうでもなければ納得はできない。ある意味でアレはタイムスリップであり、終わり方はミュータントやエスパーモノだし、映画でなら、あの締めはドン・テイラー監督の『新・猿の惑星』を思い出させるからだ。
つまり、犬鳴村の呪いとは主人公・森田奏の隠された超自然的な犬の力を呼び起こす設定となっているのだ。
エスパーを扱ったマンガ・アニメでよくあるあるパターン。「理不尽な恐怖で、追い込まれた主人公自身が知らなかった未知のパワーが覚醒する」っていうアレなんです。-- これでピンとこなければアニメ映画『幻魔大戦』でも観てもらうしかない。
このホラー映画の落としどころは、ハッキリ云ってこれです。
でも、あまり上手くはいってない気がする。メインがソレなので、クライマックスをムリに盛り上げようとした工夫が、逆に空回りしている感じなのだ。
でも、まぁ。チューーーーズドン!だけでも片道2時間かけて観に行ったかいがあって良かったよ。Good!
最高だったよ、チューーーーズドン!
追記:このホラー映画、リチャード・ドナー監督『オーメン』をお手本にしているみたいだ。グレゴリー・ペックが出てこない『オーメン』だよ、この映画は。