えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

『ジョーカー・ゲーム』は何故イマイチなのか?

注:ここでは『ジョーカー・ゲーム』『007 ムーンレイカー』『トータル・フィアーズ』『神のみぞ知るセカイ』のネタバレになる可能性があります。(敬称略)


 『ジョーカー・ゲーム』は何故イマイチなのか?

ジョーカー・ゲーム : 作品情報 - 映画.com

 『ジョーカーゲーム』は主役の亀梨和也の使い方を間違えている。それはスパイものと言われるジャンルの本質が分かっていないからだ。結論から先を出してみると。

 スパイものはオッサンのファンタジーだからだ。

 これにカチンとした人はこう言い直しても良い。

 スパイものはトラディショナルが嗜むエンターテイメントだ。



==== どちらも意味は同じなのでお好きな方をどうぞ。ちなみにここではオッサンで通します。 この主張を補足するために①②③の作品を上げるが、その前に「オッサンのファンタジー」であるスパイものの本質を描いた作品が偶然にも公開されていた。『スパイレ・ジェンド』がそれである。

【映画パンフレット】 スパイ・レジェンド 

 
 この作品も突っ込みどころが有りすぎるのだが、それなりに最後まで観られるのは主演のピアース・ブロスナンの存在感によるのが多々だが、もちろんそれは彼がかつて主演をしていた007:ジェームズ・ボンドシリーズのキャライメージを利用しているからだ。「御都合主義?そうですよ。だってオッサンですから!」と開き直って、不満よりも安心して観られるという出来になってはいる。

ちなみにスパイがオッサンでないとイマイチ感が残ってしまう作品もある。『エージェント・ライアン』がそれである。

エージェント:ライアン [Blu-ray]


映画を観たひとならわかるだろうが、印象としては「思っていたほど面白くなかった」か「思っていたほどはつまらなくなかった」だろう。それは主人公のライアンが新人(若造)だからだ。そして③の方法で壊滅的なダメさをかろうじて回避しているからだ。


 『ジョーカー・ゲーム』の大味のゆるさはあきらかに007(おそらくはロジャー・ムーアの頃の)を意識しているのだろう。 そもそも007も初期の二作品を除けば、大味でゆるい出来しかないシリーズだ。『ジョーカーゲーム』並に叩かれても良いはずだが、そうはなってはいない。理由はもちろんボンドがオッサンだからだ。

 ①『007:ムーンレイカー』 

ムーンレイカー [Blu-ray]

 
ジョーカー・ゲーム』は007シリーズのような(少しジャッキー・チェンが混じってる)出来を狙っているのは分かる。荒唐無稽な小道具や悪役の配置の仕方。悪役の一人が車椅子(あきらかに、シリーズ通しての宿敵である、スペクターのプロフェルド)である。あるが、どうして007は新人ではなくオッサンでないいけないのか?そもそも、オッサンとは何か? 

それはオッサンとは知識と経験に基づいた駆け引きができて、それによって不可能を可能にする男。だからだ。 

と、現実のオッサン達は“そう思って”いるからだ。それが理不尽な仕事に黙って粛々と現実に対処してきた“人生”だからだ。それをポッとでの新人に解決されたのではたまらない。 だからこそ、スパイの主役はオッサンでないといけない。もちろん、年下の美人にモテモテなのもデフォルトで付いて当たり前だ。そして、オッサンは新人(若造)にダメ出しをしないといけない。 そして、たとえば社運をかけるプロジェクトを会社がいきなり新人に任せる訳がないことは普通なら誰にでも分かるだろう。だから、新人を主役にする場合は相棒にオッサンを付けるべきなのだ。そうしないとリアリティが感じられなくなってしまう。 

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  優秀だが、新人の情報分析官ジャック・ライアンを助けるのは三人のオッサンであるCIA長官ウィリアム・キャボット、工作員ジョン・クラーク、そして謎のスパイ。である。新人は頭脳が良くても経験が無いからあるのは行動力という肉体ガチンコ系で活躍する余地を(もちろん主人公だからオイシイ処である。)残してその他はオッサンがフォローする作りにすればよい。もしかしたら『ジョーカー・ゲーム』では伊勢谷演じる結城中佐がそれに当たるのかもしれないが、それにしても万能過ぎて、一言でいうなら「お前はエスパーか!」になってしまい主人公の活躍をダメにしている。

 また、このジャンルでオッサンではなく、新人(だけ)を主役を据えた場合、ある問題がおきてしまう。主人公に対して相対的に“悪役が間抜けに見えてしまう”問題である。新人に対して悪役はベテランというオッサンである。そして、ここで上げたオッサンの定義からみれば新人が悪役を倒すのはそれなりの工夫をしないと、ただシラケるだけだ。これを回避するには新人の“ある部分”を強調して“オッサン化”しなければいけない。

 ③神のみぞ知るセカイ』 

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漫画原作をアニメ化した作品だが、主人公、高校生の桂木桂馬はギャルゲー攻略の天才であり、授業中にギャルゲーをプレイし、「現実(リアル)はクソゲー」と言い放つ主人公は完全にオッサンである。事を解決するきっかけは自身の命がかかっているからだ。ギャルゲー攻略の超スキルを使って“ありえない”問題を対処して、そして、クリアしてゆく様は笑いはおきてもシラケさせてはいない。 

ジョーカー・ゲーム』の主人公は訓練中のシーンに人並み以上に優れた観察力と記録力の能力を強調しておきながら実際の活動には反映されないという“無駄使い”をしている。特にクライマックスではその能力を使って悪役というベテラン(オッサン)を出し抜くというのを見せ場にしなければならないのにそうしてはいない、これでは悪役が間抜けに感じてしまい、かつ、エンタメに必要な高揚感を確実に減らしている。簡単に言うと「シラケる」のだ。 


だから、この映画を面白く観れるのは主役の亀梨和也よりも年下だろう。年下からみれば亀梨は充分にオッサンになるからだ。もちろんその他の人物も並行してオッサンと認められる。小さな女の子が『プリキュア』を“格好良く”みてしまうのと同じだ。『ジョーカー・ゲーム』を面白く観る大きなお友達がいたら、それはおそらく内容ではなく別のところを楽しんでいるとしか…… 

もっとも自分の見方が間違っていて、単純にこれは優秀だが難がある主人公が一人前になる、いわゆる成長談がメインなのかもしれないが、それでも、主人公が成長した、またはステップアップしたという描写をしなければならない。そんなに手間はかからない、仲間に次のセリフを言わせればよい。

 「ようこそ、D機関へ」と。

[参照&広告]
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【映画パンフ】アナザーウェイ D機関情報 山下耕作 役所広司 ロバート・ボーン 1988年

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