ここでは題名を恣意的に表記します。[敬称略]
『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』を観ました。
オリバー・ストーン監督がリベラルの鈍器ならマイケル・ムーアはリベラルの利器だ。しかもかなり鋭い。ヘタに突っ込むと反撃での被害が激しすぎる。それくらい入念に調べて映画にする。その鋭さを堪能するのが正しい見方だ。そして『世界侵略のススメ』はマイケル・ムーアの集大成になっているからレヴューがし難いのも確かだ。そこで今回は「どうしてアメリカはかつてのカンザス(映画を観れば分かる)では亡くなったのか」を個人的な感情と共に書いてみたい。
〇 前史
ニューディール政策からはじまったケインズ主義を基にした経済政策が50年から60年代からアメリカの経済力はうまく機能していたが、それ以降は企業活動の多様性が顕著になり始め、主に軍需の寡占産業と鉄鋼・繊維の国内産業に自動車・機械の輸出産業の連携が取れなくなり、そのアンバランスさがケインズ主義のアメリカ経済を揺るがし始める。つまり経済の下降化がはじまる。
〇 ジミー・カーター大統領
カーター大統領が就任する前のアメリカは自信を失いかけていた政治のウォーターゲート事件、ベトナム戦争の失敗、悪くなる一方の経済、そして財政悪化。民主党のカーター大統領の就任は好意として迎えられた。その政策はざっくりいうと「人権重視」と「適切な財政出動と緊縮政策(構造改革)」の二本。ところがカーターの政策は失敗した。議会と官僚のコントロールができず、さらに国内でスリーマイル島原発事故。外交でイラン革命と人質開放問題。とどめに身内にスキャンダルがおきて国民の信頼も失った。経済はインフレーションでさらに悪くなってゆく。
〇 ロナルド・レーガン大統領
「アメリカの威信」を取り戻すレーガン大統領の就任は外交としてはデタントの否定。内政は減税と社会保障費・軍事の財政支出の二本が基本。そして市場原理と民間活力の新自由主義を取った。それらは政治の保守とキリスト教保守の指示を得るための具体的な指標となった。結果がどうかは分からないが金融工学などの新たな市場の開拓促進。敵国のソ連が崩壊してレーガン大統領は冷戦の勝者として歴史に刻まれる。ところが、それは貿易赤字と財政赤字の両方、いわゆる双子の赤字を生み出してアメリカをボディーブローのごとく苦しめてゆく。
ざっくりいえば『マイケル・ムーアの世界征服のススメ』はレーガン以降の共和党の政策&マッチョイズムの批判をネチネチとやっている訳だ。まさに集大成。
そして、もうひとつつけ加えるなら、この映画は「希望を語っている」ものでもある。それらはかつてアメリカから出てきた事を教えて「今からでも復活はできるぞ、だから現状をブチ壊せ!」と訴えている。
個人的にはアメリカ批判を優先するあまりに検証が足りない感があるが、マイケル・ムーアはそこは百も承知で煽っているので、突っ込んだら負け!