ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略][加筆修正有]
『プリズナーズ』『複製された男』『ボーダーライン』の作品からシリアスなイメージをもっていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のばかうけ発言で自分のだけの好感度が爆上がりの監督の新作『メッセージ』。観終わった後には自分の思い出がよぎって不覚にも泣きそうになった。もっともそれ以前に泣いたのは『ローグ・ワン』だし、その前は『スター・トレック BEYOND』で泣きそうになったので、いわゆる「お里が知れる」訳なのだが(苦笑)……
原作はテッド・チャンのSF短編『あなたの人生の物語』なのだが、コアなSFファン向けの原作に対して『メッセージ』には小説のアイディアが変更されており、異なるアプローチがされている。なのにそのテイストは『あなたの人生の物語』であり『メッセージ』だ。ここでは自分のSF的解釈をひとつだけ書いて。あとは映画にそった解説をして。題名どおりこのメッセージが何なのかを自分なりに締めたいと思います。
原作『あなたの人生の物語』のSF解説ここ。
映画『メッセージ』のSF解説はここ。
「【至急】エイリアンの宇宙船ってどうやって動くんですか?」映画『メッセージ』スティーブン・ウルフラムのSF考証裏話 - 100光年ダイアリー
ここから先はネタバレになります。観ていない方にはおススメできません。
そして、かりに私たちが時間をさかのぼって、過去の出来事に影響を与えることができたり、未来をみることができたとしたら、因果律は明らかにやぶられることになるのだ。……
……もしそのような“ワーム・ホール旅行”が可能であることがわかった場合には、それは因果律を満足させ、これまでのジグソー・パズルに、新たな部分を一つ付け加える形でおさまりがつくだろうと思われる。
ジェラード・K・オニール著 スペース・コロニー2081 より
映画や小説、アニメなどによく使われるワープとか亜空間とかの超光速のガジェットは実はタイムマシンでもある。
例えばA星からB星の距離が10光年あったとして、自分が超光速でA星からB星へジャンプしてB星にいるにも関わらずA星には自分がいるのを理解できるはずだ。何故ならそれを伝える光の速さは一光年でありB星にそれが伝わるのは10年後だからだ。つまり10年前にタイムワープしている。なので同じ時空間に自分が二人いるのだ。これは矛盾だ。因果律を乱している。
しかし、因果律とは「原因があって結果で終わる」過程でもあり、直線的だ。そして、それは自分達人間の感覚でもある。
そこでもしも全ての因果律を知っている生命がいるとしたら?『メッセージ』のヘプタポッドがそれだ。彼等はまるで宇宙の「全記録」してファイリングするかのような存在だ。
『メッセージ』ではそれを示唆する重要な台詞がある。「素数 を代数を使わずに示せる」と、つまりそれは計算という直線的な方法ではなく、宇宙の全ての情報をもっていると宣言しているといってもよいからだ。ヘプタポッドはまさしく違う次元に生きている生命体なのだ。あの文字もそれを暗に示している。それを裏付ける描写として彼等は人類に超光速飛行の方法を教えて文字どおり地球上から「消えた」。
そして、その感覚は主人公ルイーズにもあるし、シャンにもある。そして人類全て要素としてある。何故なら、あの時にへプタポッドは「3000年後に貴方達の助けが必要になる」と。そう言っているから。つまり人類もいつかヘプタポッドのように「進化」する。
ルイーズは彼らと直に会話をしたから。その感覚に目覚め(または余波で)たのが「早かった」のに過ぎない。
正直、かなり強引な展開だとは思う。しかし『あなたの人生の物語』でのフェルマーの原理と数理物理学の変分原理の部分であるSF的アイディアを無くして代わり『メッセージ』では「超光速する生命体がいたらそれはどんな存在か?」にすることでアイディアではなく原作の本質であるウエットの部分を取り出した。
誰かを慈しみ愛することを。だ!
運命とは直線的な考えであり、そしてそれは所詮は予言が含まれる宗教的な視点でもある。そうではなくて現実(幸福と不幸)を「いかに愛するか」を説いたのが原作の『あなたの人生の物語』の主題であり、映画『メッセージ』の主題(メッセージ)でもあるのだ。
『メッセージ』と『あなたの人生の物語』はこうして繋がった。まるで、あのヘプタポッドの文字のように……
余談:個人的には『メッセージ』の宇宙観は『コンタクト』や『インターステラー』と同様、ブレーンワールドを採用していると考えている。『コンタクト』でのレコーダーの長時間ノイズ、『インターステラー』でのワームホールの描写にそれからも分かるとおり『メッセージ』では超光速にブレーンワールドを使っている。プレーンワールドでは重力波は超光速通信(つまり重力波による転送も可能)になるかもしれないからだ。その辺は白水徹也 著『宇宙の謎に挑むブレーンワールド』に網羅されているのでSF映画ファンは一読するのを進めます。