ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
『全員死刑』は実在した事件を元にして描かれた原作『我が一家全員死刑』の映画化。経済苦に陥ったヤクザの一家が、資産家の金を強奪しようとするが、人を殺してしまい、それがエスカレートして最後には4人も殺害する顛末を下品かつユーモラスに描いた。
この映画、最後のカオリの一言がすべてを語っている。こんな奴らに共感できるわけがない。だから、笑いにするしかない。原作の後味はやりきれなさを感じたからなおさらそう感じる。感情移入はできないし共感もできない。
先に共感はできないと書いたが、もしかしたらこの映画は共感するのではなく、共鳴するのが正しい観方なのかもしれない。共鳴の素材は暴力だ。盗撮男をシメていた男が次の瞬間には別の男の暴力に怯えるように、ここでは暴力が音叉のように共振して別の暴力に共鳴する。
音を表現として選んだのは、ここでは暴力は理由もなく現れるからだ。とりあえずパターンとしては「ナメられたら発動」するのがここでの暴力だが、どう「ナメたら」それが発動するかは分からないからだ。ただ個人的な体験からでもそれはよく分かる。暴力は理不尽でもあるからだ。地震のようにエネルギーを貯めていてそれが不意に解放されるようにだ。セックスがそれに裏付けられるように描かれていることからもそれは感じられる。
そして、付け加えるなら暴力という音に出会ったら、それを避けることはできないところだ。だから男も逆らずに頭を差し出す。そいつは暴力という共振に踊らされているからだ。まるでセイレーンの歌声に惑わされたように……そう見るしかない。
小難しく語れば、ハンナ・アーレントの凡庸な悪とかでも引用すればいいのだが、できないけど……。『全員死刑』のラストは共振と共鳴である暴力が行き着く先は目がとっても印象的なアレとの共鳴周期を超える不協和音で終わっている。だから、これで良いのかも。

我が一家全員死刑 福岡県大牟田市4人殺害事件「死刑囚」獄中手記 (コア新書)
- 作者: 鈴木智彦
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