ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
食品メーカーに勤める川原由加利はふとしたきっかけで知り合った研修医である小出桔平と同棲をしていた。ある日を境に彼と音信不通になった由加利のもとに警察が訪ねてくる。桔平が路上でくも膜下出血で倒れて意識を失っているところを発見され病院へと搬送されたが、所持していた免許証や医師免許は偽造であることを由加利は知らされる。桔平への愛を疑いはじめた由加利は離婚歴のある興信所の男、海原匠の助けを借りながら桔平の過去を探る。それは彼女自身の桔平への想いを探る旅でもあった。
いきなり私事だが、住んでいる所での『バーフバリ』の上映も終了して、バーフバリロスになった今の自分を慰めてくれるのは『マジンガーZ / INFINITY』になったのは自然の成り行きで当然だとしてもマジンガーの鑑賞(2回目)のつきあいで観た『嘘を愛する女』が、まさかのマジンガー連チャンだったので驚いた。
『嘘を愛する女』は、主演の二人と舞台が『世界の中心で、愛をさけぶ』を連想させるところがあるので、どうしても姉妹編な印象をもってしまうし、興行もそれを狙っている節があるので自分としては「取りあえず観ておこう」の気持ちだったし、観終わった感想もそんな感じしかなかったが、ここまでマジンガーZを特色にするのなら、「この部分を語るのは自分しかいないではないか」の気持ちにもなる。それくらい、あのマジンガーZは重要なキーになっている。
最初の方で高橋一生が演じる桔平がネットで「これじゃ無いんだよな」と選んでいるのは玩具の超合金であるマジンガーZ、いわゆる超合金シリーズは現在でもバンダイが続けている人気商品だ。だから、一見すると彼はマジンガーオタクの設定と勘違いされそうだが、中盤からこれが重要なキー、ドラマでいうところの伏線になっている。後で彼の正体を知るために四国の瀬戸内に渡った長澤まさみが演じる由加利がある場所から見つけるマジンガーZはアイアンカッターつきのマジンガーだからだ。アイアンカッターとはマジンガーのロケットパンチの強化版というべきもので文字通り腕から斧状の刃を飛び出して敵を粉砕する設定になっていた。
最初の超合金マジンガーZの売り文句のひとつに「本当にロケットパンチが出せる」があった。子供たちはそれを使って遊んでいたのは想像できるし、そのためにパンチの部分が行方不明になってガッカリする事もあっただろう。ましてやアイアンカッターならなおさらだ。
映画の創作なのか、そうでなかったら現実にアイアンカッターの超合金マジンガーZがどのくらい希少なのかは知らないが、大切なのは、ここで映画のテーマ「過ちで失われたものは取り戻せるのか?」が示されるからだ。
そして、補足として描かれるのは吉田鋼太郎が演じる海原匠が、-- 余談だが、海原が運転している乗用車が日本車ではなくイタリアのFIAT、しかもオンボロなのが海原という男を興信所というよりもハードボイルド探偵としてのイメージをつけている。しかも『ルパン三世 カリオストロの城』オマージュと勘違いしても当然のシーンもある。-- 自分の娘に放った一言を今も悔いている部分を描いているところだ。
だから、この映画の見所は桔平の過去が明かされた事ではなくて、由加利が彼の「どこの部分」に惹かれたのか?それが、どこから生まれたのか?そこから由加利はどのように気持ちの整理をつけるのかが最大のクライマックスであり見所でもある。だから、この後にくるリアリティが無いセット -- 説明台詞で「まるで時が止まったような」みたいなところからも分かる。ーー と700ページの小説がちゃんとドラマとして効いてくるからだ。
そしてその後、アイアンカッターが「どうなったのか」を見れば二人のこれからを暗示しているところからも分かる。
ただ、先に書いたようにマジンガーZとアイアンカッターの件を軽く受け流すと、このドラマの奥行きを見逃す羽目になるし、何よりも最大の弱点はこのドラマを楽しむ層がマジンガーZなんて観ているはずなんて無いので、何だか工夫を勘違いしている感が強いのもまた確かなところだ。