ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
夢枕獏の伝記小説を日中合作で映画化。8世紀、遣唐使として唐に渡った若き空海。そこで目にしたのは皇帝の謎の死。それをきっかけに起こる怪奇な事件。空海は皇帝の死に居合わせた詩人・白楽天と共にこの謎を追って、行き着いたのはかつて皇帝に寵愛されたある女性と男の悲劇の物語だった。
いきなり私語だが、原作が夢枕獏なので、空海の人生を描いた宗教映画になるはずもなく、むしろ代表作『陰陽師』みたいな、さらに跳躍した考えで漫画『孔雀王』みたいなVFXを駆使した映画になるのだろうと予想はしていた。しかも監督があのチェン・カイコーなのだ。これは素晴らしき大バカ映画『グレートウォール』を監督したチャン・イーモウの対抗意識で「俺も大バカ映画を撮る!」と、言って出来上がったのが『空海』だろうと、個人で勝手に妄想したものの、原作の大半は宗教・術式の蘊蓄のあの膨大な長編小説をどうやってまとめてゆくのかは「無視してサクサク進めるんだろうな」と片隅には思いながらも。個人的には興味はあった。ところがこれが猫映画だった。しかも、ある女性の頭の上に猫が座っている描写で、どうやらこれは原作よりもエドガー・アラン・ポーの短編小説『黒猫』をお手本しているらしいことも。
ネタバレ無しで『黒猫』のキモだけをいうと「ある人の無念を猫が白日にさらす」だ。これを仕組んだ当事者たちは良心の呵責でこの事実を必死になって正当化することで心を落ち着かせている部分も含めて、この映画と同じだ。そしてポーが描く「最大の恐怖」もある女性の悲劇の描写でされている。
しかし、ここまでならただの怪奇映画だが、これがチェン・カイコー監督にかかるとちゃんと彼の映画になる。愛はその人には届かないし、逆にその愛は相手には届かないになる。つまり「愛しているのに、それは決して報われないで終わる」になるのだ。それはある男の描写で明確に分かる。『さらば、わが愛/覇王別姫』から続いているカイコー監督の主要なモチーフとテーマに結びついてくるのだ。それは大バカ映画の『グレートウォール』でも自身のモチーフとテーマである権力批判をちゃんとやったイーモウ監督と同じだ。
そして、そうした「悲しさ」を愛と感動のドラマでも悲劇のドラマとして描かず、「ある種の美しさ」をもって描くのがカイコー監督の腕の見せ所でもあり本領でもある。それは、鳥霊信仰をヒントにしたのであろうあのシーンからちゃんと伝わってもいる。が、物足りない。
おそらく今作はカイコー監督が職人に徹してか、どうしても撮りたいものではなかったのかも知れない、かって魅せた冴えがこの映画ではあまり感じられない。それともやっぱり吹替ではカイコー監督のもつ美しさはちゃんと伝わらないのだろうか?
「俺は字幕版が観たいんじゃー!!」のしょうもない感想でこれを〆ます。
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