ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
チェールズ・ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』の創作秘話を描いた映画。アメリカ講演旅行後のディケンズは低迷していた。ヒット作を出そうと焦る彼の前で参列者がいない金貸しの葬儀を目撃。エベネーゼ・スクルージのキャラらしきものが表れて新作のアイディアがひらめくが、疎遠にしていた父が家にやってきたのをきっかけにして物語の落としどころが分からずに苦悩する。それはディケンズが子供のころに体験した出来事と深い関係があった。
この映画は三つの要素がある。
一つ目は、あの名作『クリスマス・キャロル』を題材にしているので読んでいる方がチョットだけ楽しめる。ということ。そして舞台となる18世紀当時、英国を統治してたビクトリア女王がドイツのアルバート公と結婚したことで、ドイツでの祝い方が英国王室から庶民に浸透して「家族で祝う」である様式(サンタクロース以外の)が、この時代から始まり、「クリスマス・キャロルでの聖夜の奇蹟」と共にクリスマス誕生秘話として描いていること。
二つ目は、いわゆる創作秘話でもあるのでプロでもアマでも何か創作をしたことがある人にとっては、結構響くエピソードがあるところ。キャラクターの立て方や物語の作り方、そして感動へと誘導するために、自分が主張している「葛藤の結末は多くの皆が納得する出来る限りの非合理であった方が良い」を落としどころにするための作家としての苦悩を描いているところ。
三つ目は、この映画の舞台となるのが先述した産業革命でイギリスが頂点に達したヴィクトリア朝 なので、貧富の格差がドラマの根底にあるところだ。後半は主人公であるディケンズのトラウマをどうやって克服するかに焦点が当てられているし、そこに明らかに現代の格差社会への批判が忍ばせている。ちゃんと「自己責任論」を主張する富裕者も描かれているし、何よりもディケンズの作品そのものが産業革命で存在していた当時の社会的弱者を可視化したモノなのだから。そうなるのは当然だともいえる。そして格差からくる貧困者への一方的な搾取が貧困者の尊厳をどう削って行くのかをディケンズを通して描かれている。
この三つの要素を上手く絡めて進めているので、観終わった感情を簡単にまとめると「アカデミックやなぁ」になってしまう。知的で上品な映画だ。画の良さよりも台詞運びが主なところもそれに拍車を掛けている。
そして、クリストファー・プラマーが出演しているから、つい『ゲティ家の身代金』を思い出して妙な期待をするが、当然そんなモノは無く、結局は主演のダン・スティーブンスが座長を務める舞台劇を観ているといった感じか。
また、ミロス・フォアマン監督『アマデウス』のような、邪悪な何かが、上品なモノに変わるスリリングなモノはないし、ディケンズとスクルージの関係だけを突き詰めて、キャラクターの暴走にディケンズが四苦八苦する。といったファンタジーな描写もない。
つまりは結局、この映画にノレなかったのだよなぁ。知的で上品だけども……。
THE MAN WHO INVENTED CHRISTMAS | Official Trailer

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