ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
マット・バイによるノンフィクション『All the Truth Is Out』を映画化。1988年のアメリカ大統領選挙。コロラド州選出の上院議員ゲイリー・ハートは、史上最年少となる46歳で民主党の大統領候補のひとり "フロントランナー" となった。若くてカリスマ性もあったハートは順調に選挙戦を進めていたが、アイアミ・ヘラルド紙の記者が入手した、ある疑惑が報道されて一転して苦境に陥る。
ゲイリー・ハートは知的財産法にあたる半導体チップ保護法(1984)を支持したひとりである。1984年はアップル社で現在自分等が親しんでいるのパソコンの原型(GUI -- グラフィカルユーザインターフェース)であるマッキントッシュが発表され、同じ年にPCではOSであるMS-DOSバージョン3.1にネットワーク対応になったばかりで、半導体製品といえば電卓であり テレビゲーム (アタリ)が主流で、パソコンがまだ基幹インフラではなく趣味の側面が大きい電気製品だった時代に、ハートはパソコン(ネット)の重要性と将来性を見抜いていたひとりでもある。
だから、もしも彼が1988年の民主党大統領選の公認に選ばれ大統領になったとしたらアメリカはそれまでの重工業・製造業重視から情報技術・先端技術の育成に力をそそいだことでアメリカ工業力の転換が起こる可能性はあったし、もしもそれが起こったなら、新たな雇用と財源を生み出し、そこから、現在の格差社会問題も低く抑えられて反知性主義からくる分断された社会状況を回避できた可能性もある。もちろん可能性の話で、根拠はない。
そんな革新的な考えの持ち主が、性別観・性差観では旧来の考えしか持っていなかったがために起こる顛末を描いているのがこの映画だ。
そのスキャンダルが巻き起こった背景は大きく分けて二つ。一つ目は1988年当時ソ連(現ロシア)では停滞していた経済を活性化させるために経済だけではなく言論も自由化された改革ペレストロイカが行われて、どうやら核兵器による東西の全面戦争は遠くなったこと。だから国を率いるリーダー像にも変化が表れた事。
二つ目は女性解放運動である60年から70年にかけてのウーマンリブから伝統的なイメージが否定されて男性主体だった職場にも女性が進出してきた状況がある。この映画でもハートのスキャンダルにこだわる女性記者が描写されている。彼女が、どうしてそうなのかは女性が低く扱われていることへの怒りでもある。
ちなみに一方的に女性側が男性側を非難しているだけではなく、女性側でも旧来の女性対しては反対的な態度をとる描写がある。ハートと一緒にいた女性が泣きじゃくる姿を選挙対策の女性が表向きは同情を装いながらも、別れる段になって、その女性を突き落とす-- エスカレーターからその女性だけを下ろして、それを見送る ーー かのようにマスコミに差し出す。シーンもあるからだ。
だから、この映画は政治スリラーでもサスペンスでもハート上院議員の行動の是非を問うのでもなく、その時に起こった時代の節目を描くのが目的なのだ。裏を返せばそれに興味を感じないとひたすら退屈な映画でもある。なにせ自分の時はどこぞのオッサンがイビキをかいて寝ていたくらいだから。
ジェイソン・ライトマン監督は社会的問題を娯楽として描いてきた印象がある監督だ。今作では時代の節目という「雰囲気」を娯楽として描くという難題に挑戦している。そして今作でそれを娯楽として担保しているのはハートを演じたスター、ヒュー・ジャックマンなのだ。
イチゴのショートケーキはイチゴがなくても食べれるが、甘さが強く感じ逆に美味しさを減じる。だからイチゴを置くことで、その酸味で甘さと美味しさを印象づけられる。今作でのヒューの役割はショートケーキでのイチゴの役割なのだ。そして、それは成功している。「雰囲気」が娯楽として描かれているからだ。それはヒューのような演技に凝りすぎないスターが出演しなければ、理的さが表に出すぎて逆に地味な印象しか残らないのを回避できているからだ。
しかし、娯楽は娯楽でも相当に大人の娯楽であり、自分が楽しむ柄じゃなかったな。というのが、素直な感想だ。
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