ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
黒人刑事が白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)に潜入捜査した実話を映画化。1979年、コロラド州コロラドスプリングスの警察署で初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワースの主な任務は潜入捜査であった。ブラックパンサー関連の潜入を終えた後に広告に載っていたKKKのメンバー募集に電話をして黒人差別発言を繰り返して入団の面接にまで漕ぎ着けてしまう。もちろん、ロンは対面できないために同僚でユダヤ人の白人刑事フリップ・ジマーマンに協力してもらうことに。かくして電話のロン、対面のフリップという、かつてない潜入捜査がはじまる。
やっぱり今作の感想を書くにあたって避けられないのが、2019年(第91回)のアカデミー賞の『グリーンブック』作品賞受賞に対するスパイク・リー監督の発言だ。これはこの映画のミソでもあるからだ。台詞にすれば「ブラックパワー」であり、今作でそれを唱えていたのはブラックパンサーだが、その源流は黒人解放運動の指導者であるマルコムXが訴え、(最初に主張したのはマルコムXが所属していた組織ネーション・オブ・イスラムの創始者ウォーレス・ファード)よりどころにしていたブラック・ムスリムの教えが『マルコムX』を撮ったリー監督にもあるからだろう。
ブラック・ムスリムはもちろんイスラム教が底流にあるが、イスラム教と違うポイントが二つある。「黒人に勤勉、尊厳、経済的自立を説き、道徳的一体性を取り戻す」と「奴隷化される以前の黒人の宗教はキリスト教ではなくイスラム教であったのだと説いて、白人よりも黒人の優位性とアイデンティティを示す」ことだ。
そうゆう視点から見れば『グリーンブック』は黒人差別を描いているにもかかわらず最終的には白人と黒人との個人的な友情(友愛)で終わるので、結局は白人の価値観であるキリスト教 -- しかも、『グリーンブック』ではクリスチャンが好む記号的な演出である、奇跡感を演出してクリスマスに雪を降らす描写もしている -- の方によせているので、リー監督からすれば、これは民族的な自立心を認めた上での多様性ではなく、一方的に価値観を押し付ける。もっとハッキリ云えば、同化を主張しているのと同じなので、不快感を表明するしかない。見た目は感動作でも本質としてはジョーダン・ピール監督が撮ったスリラー『ゲット・アウト』と同じことをしているのと変わりがない。-- もっとも、今作では民族的な自立心に目ざめるのは黒人ではなく、アダム・ドライバーが演じるユダヤ人刑事のフリップ・ジマーマンになってはいるが。
そして、やはり賛否を巻き起こすのは、あのラストシーンだろう。人によっては唐突に思えるかもしれないが、4・5作程度しかリー監督作品を観ていない自分が感じたのは「監督らしいわ」だ。スパイク・リー監督はちゃんとドラマを仕上げるより、強い主張を「演説」で魅せる作風であり、今作ではそれが見事に決まった。最後のショットは痛烈だ。
それを踏まえた上で映画そのものの出来上がりを見れば、サスペンスとしてもコメディとしてもどっちつかずで最後まで緩い感じで進行する。実話の冠がなければ微妙な評価になっていたかもしれない。そうなったのは、どうやら黒人をターゲットした娯楽映画ブラックスプロイテーションの展開を参考にしているらしいからだ。だから、コレを面白く感じたのなら、それはまさしく「驚きの実話」の前情報のせいだろう。
あと、アフロは最高!
参考
【ネタバレあり】『ブラッククランズマン』解説・考察:ラストの演出が突きつけるアメリカの今 | ナガの映画の果てまで
BLACKkKLANSMAN Official Trailer (2018) Adam Driver, Spike Lee Movie HD
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