えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

『天才作家の妻 40年目の真実』超々ネタバレギリギリの感想

お題「最近見た映画」

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

 

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www.imdb.com

 

メグ・ウォリッツァー原作小説の映画化。文学の名匠ジョゼフ・キャッスルマンにノーベル文学賞の通知が選考委員会から届く、喜ぶジョゼフと妻のジョーン。お祝いムードに包まれながら、同じく小説家で自分の作品を父に認められなくて不満を抱く息子のデビッドと共に授賞式があるストックホルムを訪れる。そこで3人はジョゼフのことを書こうとする伝記作家ナサニエル・ボーンと会うが、彼がぶつけてきたある疑惑が授賞式準備に華やぐ中でジョゼフとジョーンに暗い影を落とし始める。

 

 まず、最初に断っておくとこれはフィクションで、実話ではない。ジョゼフ・キャッスルマンという文学者は実在しないし、今作でもノーベル物理学賞のジェームズ・フィンチなる人物が出てくるが、こんな受賞者も存在しない。-- おそらくモデルはCP対称性の破れを発見したヴァル・フィッチなのだろうが -- つまりここで描かれるノーベル賞とはドラマを動かす動機づけであり、マクガフィンでもある。これを機に今まで夫妻に沈殿していた「感情」が拡販されることになるからだ。

 

そしてコレ、最初に予想していたスキャダラスな展開とは違ったモノになってゆく。クリスチャン・スレイターの登場でティム・バートン監督のビッグ・アイズの様になるのかといえば、そうはならない。「創作とは?」と「夫婦とは?」、この二つが交錯して結び合う落としどころになっているのだ。しかも、親切なキャビンアテンダントがちゃんとヒントを与えてくれるから、難しくはない。

 

夫婦の間は、ジョゼフが浮気性のところもあり、すでに冷め切ったものになっているし、だからといって秘密のせいで離婚もできない。ジョーンがジョゼフとそのような共有していたのは時代の風潮のためだが、ジョーンが離婚しないで夫婦でいたのは、いわゆるあきらめと打算からなのはジョゼフが受賞のスピーチでよくある定型文(ジョゼフにとってはそれは罪悪感の表れ)をスピーチしてしまいジョーンが爆発してしまうところからも、すぐに分かる。

 

そこを、最初に感じた落しどころにもってゆくのは息子のデビッドだ。母のジョーンはその技能を認めて「素晴らしい」と誉めるが、父のジョゼフは技能は認めつつも「根源的な何かが感じられない」と批判する。それを観た上で受賞後スピーチで怒ったジョーンが、ジョゼフに向かってアレもコレも。と本をぶちまける場面を観てしまえば、観客はジョーンにとっての創作の「根源が何か」を察することができるし、事実ジョーン自身もあるきっかけで覚ってしまうのだ。そしてこの夫婦の繋がりが、男女のソレでもなく、苦楽を共にしたモノでもない特異性が浮かび上がる。最後には、一般には理解しにくい「創作とは?」、「夫婦とは?」は交錯して結びついてドラマは終わる。

 

上品だ。とーっても上品だ。自分の柄じゃない。

 

それでは「お前はどうしてこれを観ようと思ったの?」なのだが、大きな理由と小さな理由がひとつづつある。大きなのは、ノーベル賞だ。今作はキャッスルマン夫妻を通してノーベル賞受賞の裏側を見る趣向になっている。いちSF映画ファンとしての個人的な興味はを引くには十分にある。どう、知らされるのか?何人がストックホルムに行けるのか?どのような接待をされるのか?今作ではそんな裏側をひととおり描いていて好奇心はわりと満たされる。

 

小さなのは、もちろん主演のグレン・クローズの演技だ。第91回アカデミー賞主演女優賞が確実視されながら、女王陛下のお気に入りのオリビア・コールマンに賞を譲られた理由が知りたかったという野次馬感情だ。

 

それもすぐに理解した。グレン・クローズ上手すぎる!素人目にみても上手いとすぐに分かる。もう、クローズ座長の舞台劇を観劇している体だ。つまり、上手すぎて気後れするタイプだ。美人すぎてデートに誘っても断られそうだから誘わない。とか。あまりの人気で選挙の当選は堅いから投票しなくてもいいや。と思わせるレベルの上手さだ。高級すぎて選ぶと返って「偉そう」と非難されかねないタイプだ。そっくりショー演技メソッドとかのキャッチーさが無いと認めてもらえないかもしれない。

 

あとは町山智浩の言う通り熊と戦うか、それともスタッフが気を利かせて寝室のベッドに馬の首を入れておくぐらいの配慮が無いとクローズの受賞はないかもしれない。アノ映画はあれでオスカーを獲ったようなものだからなぁ(超偏見)……。

 


映画『天才作家の妻-40年目の真実-』予告編

 

 

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