ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
スティーヴン・レザー『チャイナマン』の映画化。アジア系でロンドンで小さなレストランを経営しているクァン・ノク・ミンは一人娘とつつましく暮らしていた。ところがある日娘が爆破テロに巻き込まれて死亡。絶望のどん底に陥ったクァンは犯人を捜しているうちに北アイルランドの副首相リーアム・ヘネシーの存在にたどり着く。当初はクァンを適当にあしらっていたリーアムだが、クアンはリーアムの事務所を爆破、逆に脅迫をはじめる「犯人は誰だ」と。一見、風采の上がらない初老の男は実は元特殊部隊で破壊と殺人術を身に着けた男だったのだ。
ジャッキー・チェンが従来のユーモア路線を捨て終始シリアスで通す『ザ・フォーリナー 復讐者』は結論から云えば、2000年代のジャッキーアクションでもトップクラスの水準をもった映画だった。つまり最高!
しかし、これが2年以上も公開されなかったのも理解できた。もちろん内容が昏いからでもあるが、単純な物語でもないし、なにより構成がいびつなのだ。原作(1992年刊) は未読なのでどれくらい忠実に映像化しているのかは判らないが、本来なら組織の内部紛争内で収まる物語を「蛇だと思っていたが実はドラゴンだった」男がすべてを破壊する筋書きになっているからだ。
主人公クアンが巻き込まれたのはイギリスからのアイルランド独立を掲げテロ闘争を起こしていた北アイルランド問題(紛争)なのは一目瞭然だ。今作は英・米・中国の合作であり、つまり中国本土での公開(民族と宗教問題を題材にしているから)を意識してかUDIという架空の組織になっているが、実はアイルランド共和軍から分裂したIRA暫定派を主にしており、さらにここから分裂した真のIRA、そして現在の新IRAをいぶりだして葬る。という謀略が描かれているからだ。だからそこかしこにヒントらしい文字が躍っている。血の日曜日とかオマー事件などをみれば、それは判る。
IRA暫定派のテロ活動は1998年イギリスとの和平合意で無期限休戦で武装闘争の終焉されたが、それに反発して分裂したのが真のIRA、2012年以降はいくつかの団体と併合して新IRAと呼ばれる組織が現在は活動している。
ここでは、かつてのIRA暫定派の一部と新IRAはどこかで繋がっているのではないのか?という疑念 -- それは同じIRAを題材にしたハリソン・フォード主演『パトリオット・ゲーム』でも描かれていた -- を基に、あえて許可してテロを起こすことで、細分化して実体が掴みにくい実行犯グループを暴き出して、それをイギリス政府に差し出すことで信用を得て、かつ自分の権力を強固なものにしようと紆余曲折しながらも画策する男をピアース・ブロスナン演じるリーアム・ヘネシーが行う。
つまり、アクションだけ見るとジャッキーの単独主演と思われがちだが、ドラマの視点から見ればジャッキーとブロスナンの二人が主役のドラマになっているのだ。単純ではないのと構成がいびつとはそうゆうことだ。
アクションはユーモラスだったジャッキーのアクションをシリアスに変換することに成功している。もちろんセガールばりに爆弾を作ったり、ランボーばりに罠を使うらしからぬシーンもあるが、格闘はジャッキー得意のクンフーをベースにしているし、何よりも新鮮だったのはナイフアクションとクンフーアクションの相性が良すぎるところだ。この部分はちょっとした異種格闘戦を観ている趣向で楽しい。
そして、ここは個人的な思い入れの部分だが、監督がマーティン・キャンベルなのだ。代表作は007の『ゴールデンアイ』や『カジノ・ロワイヤル』だろうが、VFXを主にした(;´д`)トホホなアクションよりフィジカルなアクションが巧い監督も印象をもっていたが、ここではさらに担当していたTVアクション『特捜班CI-5』頃の感覚を取り戻して緊迫感漂う雰囲気をもっている。実際、ジャッキーアクションとキャンベル演出の相性がここまで良いとは思わなかった。
だから、内容は複雑で昏いのだが自分は終始ニコニコで楽しめました。
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