ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
実在したスパイの告白を基にした映画化。1990年代北朝鮮の核開発により緊張状態が高まるなか、元軍人で国家安全企画部に所属しているパク・ソギョンは核開発の実態を探るため、「黒金星(ブラック・ヴィーナス)」というコードネームの工作員として、事業家に扮し中国で活動していた。やがて、慎重な工作活動によって北朝鮮の対外経済委員会所長リ・ミョンウンと接触、最高権力者である金正日と会見する機会もつかむ。しかし迫る韓国大統領選がパクの活動に暗い影をおとしはじめる。
ユン・ジョンビン監督
『工作 黒金星と呼ばれた男』はジョン・ル・カレの陰謀にブライアン・フリーマントルな主人公がフレデリック・フォーサイスの落ちをつけるというコテコテのエスピオナージなのだが、舞台が1980年代韓国大統領選のつど起こったといわれる北朝鮮関連の事件が実は進歩派の台頭を阻むために保守派が選挙を優位にするために密かに北朝鮮へと働きかけていた「北風工作」という実話を基にしている。まさに「敵の敵は味方」であり、また「事実は小説よりも奇なり」を地で行く物語だ。
そしてこの映画、昨今の朝鮮半島における南北の融和ムードに裏打ちされたところがあって、そうゆう意味では『鋼鉄の雨』、『コンフィデンシャル 共助』と同じ系統の作品だ。-- これは後述する。
また同時に80年代から韓国国内で巻き起こった民主化運動を描いた『タクシー運転手 約束は海を越えて』、『1987、ある闘いの真実』の流れを持っているらしい。ーー らしいというのは自分は後者の1作品を観ていないからだ -- 何しろ1987年の民主化運動で大統領が間接選挙ではなく直接選挙に移行してその勢いではじめて野党から大統領が誕生すると思われたが、大韓航空機爆破事件というまさに「北風」の発生でとん挫されたかたちになってしまったからだ。この映画はその後を描いているともいえる。
もちろん、見せ場は北朝鮮との接触であり、盛り上がるのは平壌を含む国内の再現だ。北朝鮮に潜入しパクが見た(接見した)金正日の再現度 --ちなみに登場する際に足元から見せるのだが、そこに子犬を歩かせることで緊張感を密かに盛り上げる工夫もしている。これはボンド映画の『007 ダイヤモンドは永遠に』や『007 スペクター』での白猫を思い出してしまう -- や、またユン監督が再現しきれなかったと不満をもらした国内の惨状についてなどの当時、そしておそらくは現在の状況を垣間見る趣向になっている。
ドラマは愛国で活動する主人公パクと国の困窮を救いたい憂国のリ所長との思いが一致する瞬間だ。重要なキーワードである「浩然の気」(道徳的活力)で、立場の違う二人の思いが結び合い、それをテコにしてクライマックスの行動へと導く。
事実は選挙を前に保守派が軍事行動を北朝鮮に即す工作をしたのは確かだが、それを止めるためにパクとリ所長が金正日に直談判する件や、パクの正体が発覚してリ所長につめ寄られる件、パクが北朝鮮から逃げ延びる件、そしてラストシーンはいわば映画のウソだ。しかしそのウソの部分が、一番に伝えたかったメッセージなのは明白だ。それは「民主化の次は民族統一」という韓国知識層を中心とした強烈な「願い」を感じたからだ。これが後述の部分だ。
とはいえ、見た目はそんなメッセージは感じられない。前述でのとおりエスピオナージの類型をなぞっているので最後まで楽しめる。ようするに面白かった!
参考
対北工作員「黒金星」、北に軍事機密を渡した疑いで逮捕 | Joongang Ilbo | 中央日報
北朝鮮潜入の工作員は巧妙に…映画原案者が語る南北の“裏の裏” (2/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)
영화 ‘공작’ 속 대북 파트너 리명운, 실존 인물일까 :: 네이버 TV연예
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