ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
『三国志』のエピソード「荊州争奪戦」を大胆にアレンジしての映画化。戦国時代、沛(ペイ)国が敵の炎国に領土を奪われて20年の時が流れた。炎国との休戦同盟により小康状態を破ったのは沛国の重臣・都督(トトク)が炎国の将軍で最強の戦士としても知られる楊蒼(ヤン・ツァン)に試合を申し込む。その勝手さに沛国の若き王は怒りを露わにするが、都督には王にも語っていないある秘密があった。
チャン・イーモウ監督
チャン・イーモウ監督の新作は『三国志』を題材にしたらしいが、そこにソレらしきものはほとんどなく、どちらかといえば武侠ファンタジーといったジャンルに属する。
昨今の中国映画界は自国作品のグローバル化、端的にいえば「中国映画のハリウッド」を目指している感がある。だからすでに世界的な名声を得ているのだから当然なのかもしれないが、イーモウ監督もその路線に加わっているらしい。
なので、この『SHADOW 影武者』も世界中の耳目を集める工夫がなされている。誰もがすぐに気が付くのは鉄で作られた特殊な傘によるアクションだ。この映画の最大の見所でもある。日本なら忍者映画で使われそうな突飛なアイディアだ。
そして、これも誰もがすぐに分かるとおり、画の色使いが水墨画を思わせるモノになっている。カラーなのに水墨画風。こんな画のつくりはフィルムではできなかったことで、-- フィルムならいっそモノクロにした方が早い -- デジタル撮影技術が発達した現在だからこそしか作れない画でもある。
しかし、その反面でイーモウ監督を象徴する「鮮やかな赤」が、ここには無い。付け加えるならドラマも薄い。一応物語はあるのだが、監督の興味は陰と陽に象徴される太極図( 陰陽魚)による「陰と陽のせめぎ合い」と後は先述した水墨画風の画しかなく、そのふたつをモチベーションを使って撮り切っているので作品歴に比べて中身はスカスカなのだ。
それでもこれだけ魅せてくれるのは、さすが巨匠というべきなのだが、これが監督の本当に撮りたかった題材なのか、それとも今や世界に進出しようとする中国映画界を代表する監督としてなることに徹して「美に耽溺(一つのことに夢中になる)」するしか興味がなくなったのかがよく分からない。自分としてはモヤモヤするばかりだ。
個人的にはイーモウ監督には、もうひと花咲かせてほしいと思っているのだが……
そんな感想でした。
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