えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

【ネタバレ無(?)】ニーチェという結びつき『アド・アストラ』

お題「最近見た映画」

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

 

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www.imdb.com

 

人類が宇宙に進出した時代。地球外知的生命体探求に尽力した父クロフォードの背中を見て育ったロイ・マクブライドは、同じ宇宙飛行士の道に進むが、尊敬する父は探索船に乗り込んで16年後に消息を絶つ。あるとき、大災厄サージに遭遇して生き残ったロイは宇宙軍から実は父は生きていると告げられ、このサージの原因と太陽系を滅亡させる力が、ある実験“リマ計画”と父がそれに関係していたことも知る。

ジェームズ・グレイ監督

 

◆はじめに

まず、いきなり告白から入るとジェームズ・グレイ監督作品をついこの間まで知らなかった者だ。そうゆうのを意識したのも購読をしている映画ブロガー ふかづめさんの『裏切り者』を読んでからだ。

 

hukadume7272.hatenablog.com

 

そんな自分が、おこがましくもこの映画について語ろうと思ったのは、この映画が「『2001年宇宙の旅』を思い起す」という感想と「『2001年』とは真逆」という相反する意見を読んで、あれ以来、チマチマとグレイ監督作品を観ていた経験から「どちらも分かる」感じがしたからだ。結論から云えば、これはヒューマンドラマなのではなくグレイ監督の『2001年宇宙の旅』でSF映画だと自分は見立てたのだ。

 

しかし、グレイ監督の特徴は題材と時代に関わらず人の心の動きのみを撮ってきた監督だ。だから、それが特殊な専門的(オタク的でも良いがどちらにせよ同じこと)設定と展開に溢れたSF映画となると勝手が違ってくる。それをどうするか?

 

もちろん画だけで見るなら、この映画は『2001年』の変奏曲なのは確かだ。例えば以下の画が、この映画なりのアレンジをほどこして現れるのだから。

 

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2001年宇宙の旅』より

そして、 THE END の文字。

 

しかし、それだけではなく、やはりドラマの核として、『アド・アストラ』と『2001年』は同じモノをもっている。それはニーチェ的思考というところだ。

ニーチェ的思考

フリードリヒ・ニーチェ超人という概念とニヒリズムからの克服という概念を提唱した哲学者だが、その思想を雑にまとめれば「キリスト教の精神的束縛とその影響下にあるルサンチマン(精神的弱者)からの脱却」になる。

 

このニーチェ的思考を真っ二つに割って片方だけで描いているのが『アド・アストラ』と『2001年』なのだ。つまり……

 

2001年宇宙の旅……キリスト教の精神的束縛からの脱却。

アド・アストラ……ルサンチマンからの脱却。

 

と、こうなる。だから……

 

2001年宇宙の旅……科学の視点で再定義する「神」。

アド・アストラ……「孤独」というルサンチマンからの脱却。

 

になる。本来はひとつだったモノを別の側面から描いているのだ。だから自分は「どちらも分かる」感じがするのだ。ニーチェ的思考から見れば同じ結果なのだから。そして……

 

2001年宇宙の旅……木星モノリスによって超人になる。

アド・アストラ……海王星ルサンチマンを克服して超人になる。

 

なにしろボーマンもロイもそこに到達するまで「長い旅」をしているのだから。

 

もちろん、そこから次に来る、「そんな展開ってSFなの!」みたいな疑問と不満もある程度には説明はできる。実は先例を知っているからだ。

 

◆トレイシー・K・スミス

『アド・アストラ』のエンドロールの最後あたりに "Special Thanks Tracy K. Smith" と現れるトレイシー・K・スミスとは2012年にピューリッツァー賞文芸賞を受賞したアメリカの詩人だ。受賞作は『LIFE ON MARS  火星の生命』。その内容を簡単にいうとSF詩である。

 

過去の詩は伝統的文脈の影響、つまり西洋ならローマ・ギリシアキリスト教的精神の影響が残っていた。そのくびきを解くために宇宙・恐竜・進化のSFの視点を使って個人としての心象風景と表現した。伝統という束縛からの解放、これもニーチェ的思考だ。そのことがスミスの評価になっているらしい。

 

らしい、と弱げなのは、この知識は後付けで得たもので、また告白すると、自分はかつて図書館で『火星の生命』を読んだことがあるのだが、その内容が自分が予想していたのではなかったので読むのを途中で止めてたからだ。つまり、自分の「新しい世界を見せてくれる感動」であるSF感と真逆のアプローチだからだ。心象とはつまり「心に映ったイメージ」なのだから。

 

しかし、「SFを使って心象風景を描いても良い」という方法論は題材や時代に関わらず人の心境(心の動き)のみを描いてきたグレイ監督には天啓に感じたのに違いない。「専門的な設定や展開を使わずとも心境のみで、自分の『2001年』を撮れる」と。それが、この映画なのだ。

 

特にいい締めの言葉も見つからないので終わります。

 


Ad Astra | Official Trailer 2 [HD] | 20th Century FOX

 

 

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