ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
2027年の京都。読書好きで内気な男子高校生堅書直実(かたがき なおみ)の前に、10年後の自分だという人物・ナオミが現れる。そこで直実はこの世界の真実を知ると同時にクラスメイトでもあり同じ図書委員でもある一行瑠璃(いちぎょう るり)と恋人どおしになることを聞かされるが、その直後に不慮の事故で彼女が……運命だとも聞かされる。直実はナオミのアドバイスでそれを回避しようとするのだが……。
伊藤智彦監督
今回はわずかばかりネタバレをしないと、どうにもこのアニメ映画の魅力を語ることができないので、まだ見ていない方にはおススメできません。「映画を観た」。と「こんなアニメ観るわけがないだろ!」のお二方なら大丈夫です。
驚くべきことに直堅書実と彼がいるこの京都は実在する世界ではなく、無限に記録ができる量子記録装置<アルタラ>に記録された仮想空間でナオミこそ現実から来た男で、その目的は現実では……なってしまった一行瑠璃を仮想空間では普通どおりの生活をさせるためにやってきたのだ。そこからナオミの導きで、書実と瑠璃が恋人どおしになる「それなんてエロゲ」作戦(σ(゚∀゚ )オレ命名)を実行。成功するが、仮想といえども歴史を書き替えるのは違反なので<アルタラ>システム管理者、具体的にはキツネ面が瑠璃を止めにかかって来るのをどうするのか?かが、メインと思いきや実は……。というのが、大筋だ。
衝撃なのは現実世界から来ていたと思われたナオミも実は仮想空間の住人である。という事実だ。つまり、「それなんてエロゲ」な展開で「リアル(人の想い)とは何か?」というシリアスな問いかけが映画から投げかけられるのだ。
フィクションでしばしある、コンピューターとネットの繋がりで現れたSF表現に仮想現実による「リアルとは何か?」という問い。そのひな形はSF作家フィリップ・K・ディックからはじまるが、この映画が、主にお手本にしたのは、間違いなくSF作家 グレッグ・イーガンの『順列都市』に決まっている。-- 何しろ書実の本棚にあるSF小説はディックとイーガンなのだから。
イーガンの『順列都市』のメインアイディアは「塵理論」にある。雑に説明すると情報とはデータベース空間(情報空間)ではかたまりとしてではなく、通常は無意味な塵として存在していて、それがあるパターンに読み込まれると情報として実体化する。要するにひとつの世界、宇宙が生まれる。
ぶちゃけると、これはひとりの少女を助けるために(仮想といえども)ひとつの宇宙を創ってしまうドラマなの!
さらに、ふるっているのは仮想だと思ったナオミも実は……の展開でこれがナオミを助けるために「ある人物」がナオミと仮想空間に繋げることで彼を救おうとする計画の一部だったと……「それなんて胡蝶の夢」。荘子オチかよ!こりゃスゲェ。
もう、全ての σ(゚∀゚ )オレが、スタンディングオベーションですよ!!
確かに問題点は多々ある、物語は主役の二人に共感か好感をもてなかったら、1㍉も面白くないし、最大の見せ場は京都という舞台とはいえ『インセプション』や『ドクター・ストレンジ』の影響があり過ぎて画としての面白さ新鮮さが足りないし……
3DCGなのに、あえてセルアニメに寄せてくるセルリック3Dは止め絵としては、現在では見るに堪える力があるが、動画となるとまだまだ日本のアニメの特徴である誇張の技術と快楽をまだ再現しきれていないし、それを突き抜ける独自性も構築されてはいない。でも……
いーんだよ!俺にとっては今年ベストなんだから!!
映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』予告【2019年9月20日(金)公開】

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