ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
第二次世界大戦中、ドイツがソ連に進行する中、新米士官イヴシュキンは、最前線での撤退のしんがりを戦車で命じられそれを見事にやってのけるが、敗れて捕虜となってしまう。 捕虜収容所に送られたイヴシュキンは、指揮官であることから、収容所で行われている戦車戦演習のため、ソ連軍戦車T-34の操縦を命じられる。指名したのは、撤退戦でイヴシュキンと対峙したイェーガーだった。もちろん実弾を装備せず、敵の砲火から逃げ惑うことしかできないそれは死を意味していたが、イヴシュキンは収容所内で知り合った仲間たちと共に、無謀ともいえる脱出を計画する。
アレクセイ・シドロフ監督
いやぁ、面白かった!
このご時世に、こんなにあっけらかんと娯楽に持っていった戦争アクションは珍しい。勝戦国のアメリカでも、デヴィッド・エアー監督の『フューリー』もやっぱり昏かったし、まして敗戦国の日本だと、どう考えても無理で、水島努監督『ガールズ&パンツァー 劇場版』(以下ガルパンと略)のアニメでしかあっけらかんとした戦争アクションは観れないから。昔ながらの戦争アクションを最新のVFX技術で観れたらいいなぁ。の自分の感情を満たしてくれた。観終わったあとに、現在でそうゆうのができる国ってのはロシアと中国くらいしかないだろうな。とも思ったけど。
とにかく、最新のVFXで戦争アクションを描いた本作の新しさは実はそれくらいで、ドラマはひたすら、いわゆるベタな展開になる。主人公は実戦がはじめてで大活躍するし、そして美人ヒロインとはやっぱり恋仲になるし、演習に任命されて最初は怖々としていた仲間達は最新のT-34-85を見たら浮足立ってキャッキャしちゃうし、性能を自賛するのにクラッシックを使ったり、ナチスは冷酷だが適度に間が抜けているし(ここ大事!)、そんな奴らを予測不能な作戦で翻弄してしまうし、主人公のイヴシュキンと宿敵イェーガーはただの敵対関係ではなく、黒澤明の『用心棒』における三船敏郎と仲代達矢を思わせるようなブロマンスな雰囲気を漂わせる。ひたすらにベタだ。
前評判に「『ガルパン』と似ている。」というのがあったけど。-- 違いがあるとすれば高速徹甲弾と徹甲榴弾を使っているあたりか ーー 確かにそんな印象だったが、監督のアレクセイ・シドロフは「『ガルパン』を見ていないと」。と言う。それはそれで分かる気がする。今作で描かれるのは正規の戦闘としての戦車戦ではなくて、ゲリラ的な使い方と騎士の一騎打ちに通じる観点で描かれている。それに戦車の挿話を入れてくれば、偶然『ガルパン』と似てしまったのだろう。
そして、今日の映画らしく戦闘描写もマンガ的表現になっているが、その方法はもちろんウォシャウスキー姉妹の『マトリックス』(1999年)からはじまるが、一発必中のサスペンスで、それ以前に狙撃兵の戦いを描いたルイス・ロッサ監督の『山猫は眠らない』(1993年)も参考にしたフシがある。
第二次世界大戦中に実際にナチスの射撃訓練の標的としてT-34 が使われていた逸話をもとに作られたと云われている『鬼戦車T-34』を観ていたら痛快な返し歌として、もっと感動していたのかも知れないが、観ていないのが残念といえば残念だった。 そんな感想でした。
注釈:『ガールズ&パンツァー』とは架空のお稽古事。「女性が戦車に乗ってドンパチする」を題材にした高校生少女達の青春を描いたアニメーション。
Т-34 - Официальный трейлер (HD)