ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
ニコラス・サール『老いたる詐欺師』の映画化。ネットの出会い系サイトで知り合った、老紳士のロイと資産家で未亡人のベティ。顔を合わせた瞬間に意気投合して、たちまちと親密になった二人だが、実はロイはベテランの詐欺師で、しかも人を殺すことを躊躇わない悪辣な男だった。ロイはベティの資産をまるごと奪うつもりで近づいてきたのだ。しかし最初は順調に進んでいた騙しはロイのある過去が露わになったとたん意外な方へと流れる。
ビル・コンドン監督
注意:できる限り内容への言及は避けますが、抵触しそうな可能性もあるので、純粋にこの映画を楽しみたい方には、ご遠慮くださるようお願いします。あと空白の部分は反転してお読み下さい。
何か手塚治虫の短編にでもありそうな話だな……。
って、観終わった最初の感想がコレでした。ちなみに原作は未読。
もちろん詐欺師が主人公だけあってこの映画はコン・ゲーム(騙し合い)の範疇に入るし、映画そのものがベティの住まい行く過程で迷路のような住宅街を上空から撮っている画で「これは騙し合いの映画ですよ」と宣言 しているので分かりやすい。
そして、すぐに気が付くのだが、ロイを演じているイアン・マッケランの顔アップのショットが多いのも特徴だ。これはもちろんラストでのマッケランのアップへの布石だったと、これも合点がゆく流れになっている。
それに対しベティを演じるヘレン・ミレンも顔で対抗する。もっとも、ミレンの方はマッケランと比べアップのショットは少ない。代わりにミレンは表情の変化でソレをするのだ。
タネを明かすとベティは過去にロイにレイプされて、その復讐、というよりも一種の決別のためにロイを破滅へと追いやる。しかし、ベティにとってベルリンまでのロイの認識はレイプ野郎の悪辣な男という認識しかない。しかし、ロイは目的のためなら殺人も躊躇しない男だ。だから、ベルリンでベティの孫を嘘で演じているスティーヴンがロイの過去を暴くのはベティを心配するあまりに当回しにした警告にほかならない。そして、そこでベティが見せる表情は「分かったが、計画は続行する」という意思表示にほかならない。
つまり、それを抑えて観れば、時折にみせるミレンちょっとした表情が、下手をすると退屈しかねない流れに微妙なアクセントを加えているわけだ。まさに顔と顔。
弱点もある。クライマックスが、ほぼ回想シーンになるために流れが停滞するし、つくり自体は小品なので決して大きな映画ではない。
でも、『パラサイト』や『ナイブズ・アウト』がフルコース料理ならこの映画はさしずめお茶漬けだ。そして、そんなのを続けて食べた後は、やっぱりお茶漬けが美味しいのも真理だ。そして、自分の気分は……
あー、お茶漬けうめぇ!
THE GOOD LIAR - Official Trailer
The Good Liar (Original Motion Picture Soundtrack)
- アーティスト:Carter Burwell
- 出版社/メーカー: Watertower Music
- 発売日: 2019/11/08
- メディア: CD