ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
天涯孤独の身で類まれな才能を持つ天才ボクサーの葛城レオは、試合でまさかのKO負けを喫し病院へとかつぎこまれた。そこで医師から自分の余命がわずかであるという事実を突きつけられ、自暴自棄になりながら歌舞伎町の街を歩くレオの目に男に追われる少女モニカの姿が飛び込んでくる。ただごとではない様子からレオが反射的にパンチを食らわせた男は、ヤクザと裏で手を組む悪徳刑事・大伴だった。モニカは親の借金のかたに歌舞伎町に流れ着き、ヤクザにとらわれていたという。彼女を救うことをレオは決意するが、その選択はレオがヤクザと大伴から追われる身となることを意味していた。
三池崇史監督
注意:できる限り内容への言及は避けますが、抵触しそうな可能性もあるので、純粋にこの映画を楽しみたい方には、ご遠慮くださるようお願いします。
ネットで超話題だったこの映画の感想を先に書くと……
どうしたんだ!三池、何かあったのか⁈
まぁ、周りが傑作!傑作!と褒めるのも納得の出来だし、クライマックスのアレも普通ならVFXでもできるはずなのに、あえてアレでやっちゃうところが、三池監督らしいといえばらしい。
各キャラクター達もエッジが利いていて魅力的だし、特にジュリを演じたベッキーは強烈かつ鮮烈で、同じ三池監督『十三人の刺客(2010)』一作のみで映画ファンの記憶を刻んだ稲垣吾郎と同じように、ベッキーもまたこの一作で映画ファンにとって一生の語り草になるのは間違いないだろう。後、個人的にはレオを演じた窪田正孝もイイ。線の細いイケメンが多い役が多いけれども、今作のようなぶっきらぼうなところが上手くハマっていた。
でも、個人的にはちょっと引っ掛かるところがあって、原作タイトルがある『蒲田行進曲』や『フォードvsフェラーリ』と違ってオリジナルなんだから、タイトルも『愛』または『初愛』にすれば良かったのにとは感じてしまった。
ようするにドラマとタイトルにピンとこなかった。わけだ。
この映画『初恋』にはもうひとつタイトルが英語で表記されていて"FIRST LOVE"なんだけども"LOVE"の翻訳である愛と恋って、よくいわれることでもあるけど別の概念で、愛とは「他の人を思いやる気持ち」であり、恋とは「互いのフィーリングが合う」だから、この映画での愛とは、まさしく前者の「他の人を思いやる気持ち」だから。つまり、人と触れ合う接点が無かったばかりに感情が表現できないレオがモニカを助けることで、初めて「他の人を思いやる気持ち」に目覚めてゆくドラマになっているんだ。
それを覚らせるようにあるキャラクターに儒教の仁を台詞で言わせているからもそれは分かる。仁の意味は「他の人を思いやる気持ち」であり、まさしく愛と同じなんだから。
それをあえてそのままではなく『初恋』としたのは正攻法よりもスカっぽい描写をしてきた三池監督っぽいタイトルでもあるのだけれども。ドラマはやっぱり、「らしくない」と言っても良いので、最初の何かあったのか⁈になったわけだ。