ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
惑星ペルディドで異変が起きていた。黒い雲に追われる地球人の父子を乗せた車が大破し、重傷の父クロード(声サディ・ルボット)は幼い息子のピエール(フレデリク・ルグロス)に卵形の高性能通信機を渡して息絶える。クロードのSOSを受信した宇宙船ダブルトライアングルズ22号の艦長ジャファール(ジャン・ヴァルモン)は、船をペルディド星へ急行させた。宇宙船には、故国の星を革命で追われたマトン王子(イブ・マリ)とベル王女(モニク・ティエリ)も同乗している。宇宙船は途中、デヴィルス・バル星に立ち寄り、番人のシルバード老人(ミシェル・エリアス)に少年救助の助っ人を頼み、ハスの花から生まれたテレパシー妖精のジャド(ルドヴィク・ボーガン)とユーラ(ピエール・トゥルヌール)を仲間にした。ペルディド星のピエールとは通信機を通じ連絡がなされ、子供の頃ペルディドにいたシルバードは彼を元気づける。一方、宇宙船は危険な惑星ガンマー10にも寄らなくてはならなかったが、そこで顔のない天使たちに捕らえられてしまい、王子の自己犠牲でようやく危機を脱することができた。さらに磁気嵐に巻き込まれるが、<時の支配者>の巨大な人工惑星に救われる。
Movie Walkerより引用
ルネ・ラルー監督
解説を読んだ方にはおわかりいただけただろうか?
なんじゃやこりゃ!?
SFなんだから救助連絡を受けたらワープでも使ってサーッと目的の惑星ペルディドへ行けばいいのにどうしてそれをしない?
これが、フランス特有のエスプリってやつか(多分違う)。
まぁ、冗談として置いておくとして、この妙な道草感がどうして起こったのかを簡単に書いておくと、この映画の原作は1958年に発表したステファン・ウルの長編SF小説『ペルデッド星の孤児』を基にアニメ映画として直した祖語がそのまま表れているのだ。実は、『ペルデッド星の孤児』とはメインアイディアに相対性理論の双子のパラドックス(ウラシマ効果)を使っているらしいのだ。-- 双子のパラドックスとは双子の兄弟がいて兄が光速に近い速さが出せる宇宙船に乗って地球を飛び出して戻ってくると特殊相対性理論による効果で地球に残っていた弟との年齢差が逆転して兄より弟の方が年を取っている結果になってしまうパラドックス。
どうして「らしいのだ」なんてあいまいな表現になっているかというと、自分も実はWikipediaで調べた程度で原作を読んだことがないからだ。でも、これを読んだ限りではこの原作も特殊相対性理論と双子のパラドックスを理解していないらしい。誰もこの原作&アニメ映画を観ないだろうから核心部分をネタバレで話すと、救助しようとしたピエールは実はシルバード老人と同一人物なのだ。つまり因果関係が逆転しているのだ。特殊相対性理論では有り得ない事が起きている。
特殊相対性理論は光速で飛んでいる宇宙船の時間(空間)を通常の時間(空間)とのズレは生じさせるが時間の逆転は絶対にしないからだ。つまり特殊相対性理論のうわずみだけを使ったアイディアで納めている。
ちなみにアニメ映画『時の支配者』だと、その特殊相対性理論の部分のアイディアは無くなって、代わりに登場している時の支配者が時の流れを逆転させている設定にはなってはいるのだが、その部分も唐突すぎてSFとしてもミステリとしてもどうにも面白みが足りないものになっている。
それでは、このアニメの見所はどこにあるのかといえば、デザインとストーリーボードで参加しているフランスの漫画家(バンドデシネ作家)メビウス(ジャン・ジロー)によるメカや異世界のデザイン画が実際に動くのを堪能するところだろう。(画像は『時の支配者』)
宮崎駿、大友克洋、谷口ジロー、浦沢直樹などに影響を与えている漫画家メビウスは映画ファンにとってはドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』でデザインとストーリーボードを担当をしたきっかけでハリウッドSF映画のデザインをいくつもてがけていて、その特徴は特に宇宙服に表れている。(画像はimdb)
これに限らずアメリカンよりも対アメリカンなデザインで、しっかりしたデッサンと曲線を基にした描線が魅力で多くのファンやプロを引き付けてきた作家だ。
そして監督ルネ・ラルーの『ファンタスティック・プラネット』ほどではないにしても、-- ただ、自分もルネ・ラルーの作品はこの二作しか観たことがない。-- エイリアンのデザインも前衛ぽっかったりもする。(画像は『時の支配者』)
ーー ちなみに『ファンタスティック・プラネット』の原作もステファン・ウル。
とまぁ、日本やアメリカのアニメを観慣れている人にはここにエキゾチックな魅力を感じるか、違和感を感じるかで好みが別れる癖のあるアニメだ。
-- ちなみに、これは余談というよりも自分の単なる推測(妄想)なのだが、この『時の支配者』での漫画家メビウスの参加が、『ロボットカーニバル』や『迷宮物語』をへて映画『AKIRA』へとアニメ監督としてのキャリアを積んでいった漫画家大友克洋が1983年にはじめてアニメに参加した『幻魔大戦』でのきっかけを作ったものだと考えている。
そして、自分の思い出としていえば、これを先に観ていたからリュック・ベッソンの『フィフス・エレメント』や『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』もそんなに抵抗なく観れたところがある。なにせこの二作を上回る道草感なのだから。
Rene Laloux: Les Maitres Du Temps [Time Masters] Trailer English/Subs