ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
今日のポエム
アニメ?マンガ?いいえ映画です!
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
そして、今回は
『忍者武芸帳』
キーワードは。
セカイ系としてのオオシマその3!
今回はネタバレはなし。
自分がかってに決めた大島渚シリーズ。3回目はどちらかといえば番外編になる。
今やコア過ぎるマニアにしか名が知られていないマンガ家の一人が白土三平だ。
白土のフィールドは今では使われなくなった忍者というジャンルだが、彼がやったことはそれまではファンタジーだった忍法と呼ばれていたものに、ある程度のロジックを与えてリアリティを上げ、そして独自の価値観・自然観で多くの人々を魅了した。それは庶民だけではなく当時の知識人も例外ではなくてマンガがイデオロギーで語られたり評論の対象になったのも白土の作品からだと云われている。-- 余談だが、白土の忍法マンガは野球マンガにも大きな影響を与えている。いわゆる魔球マンガと呼ばれていた『黒い秘密兵器』(自分は未読)や、あの『巨人の星』などにだ。
その中で、支配者層と被支配層との戦いを描いた、この『忍者武芸帳』も当然ながら当時の知識人に名を連ねる大島渚も熱狂させた一作だった。映画化自体は脚本家の佐々木守から持ち掛けられたが、具体的には実写にするかアニメかで迷ったらしい、大島にとって『忍者武芸帳』が映像化という変換で原作の熱気が失われるのを恐れたからだ。考えた挙げく大島が出した結論は、原作の生原稿をそのまま撮って、それにSE(音響効果)と役者の声を入れる!という現在ではネットで炎上間違いなし方法だった。大島はかつてドキュメンタリー映画『ユンボギの日記』(1965年) -- 自分は未鑑賞 -- でスチル写真を24分間繋いで短編映画作り上げた経験から今回もそれで行けると判断して131分の長編映画として『忍者武芸帳』を作ったのだ。-- ちなみに、1962年に既にスチル写真を繋いだ『ラ・ジュテ』があったが、これも28分の短編映画なので、おそらく長編ではこれがはじめてだろう。
少しだけ個人的感想を交えると、これが予想していたよりも面白い。もちろん大島の興味は支配者層と被支配者層との戦いにあるので、白土マンガの魅力のひとつである忍法のロジックなネタ晴らしせずに、謎の男で主人公である影丸を中心とした人々の群像劇として紡いでゆく。
そして、マンガのコマを繋いでいるだけなのに、不思議と映画として成立しているのだ。
考えるに通常のアニメやアクション映画なら編集も動きを主に繋ぐのだろうが、今作の編集はマンガ画を繋いでいるだけなので台詞とSEを主にして繋いでいる。それで、白土独自の描線も相まって展開がキビキビとして映えている。ハッキリいえば一番に見やすいし、実験作にもかかわらず、大島作品の中では一番の娯楽作として出来上がっている。
つまり大島監督作品入門編としてはうってつけで、これが駄目なら彼の作品は全部駄目だろう。
参考:「大島渚著作集 第三巻 わが映画を解体する」現代思潮新社
VODで鑑賞。