ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
今日のポエム
自分と戦え!
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
そして今回のキーワードは。
倒せ80年代!
本作はコロナ禍の現状でハリウッド大作公開の延期が続く中で、アメリカ本国ではネット配信だが、日本では先行上映という形で劇場公開された。
何でもない様な事が、幸せ……(以下、省略)
物語は1984年を舞台に何でも願いを叶える石〈シトリン〉をめぐってワンダーウーマンことダイアナが実業家マックスと彼女を狙う正体不明の敵と彼女の想い人であるスティーブ・トレバーが絡んでゆく展開になっている。
そのために〈シトリン〉を中心にダイアナとマックス(と正体不明の敵)二つの物語が交錯する形になってはいるが、ドラマは一つだ。自分自身との欲望との戦いだ。
1980年代とは経済への政府介入を廃して市場の自由に任せた、新自由主義思想を支持するイギリス首相のサッチャーやアメリカ大統領レーガン政権が誕生した時期であり、金融界への厳しい規制を課していたグラス・スティーガル法が骨抜きにされて形骸化されて金融界がうごめきはじめていた時期でもある。つまり人の持つ欲望が解放された時代でもあった。現在の社会状況の原点こそが80年代なのだ。その行き着いた成れの果てがヘイト(憎しみ)と分断 -- それを象徴するのもちゃんと本作では表れる -- を誕生させた。
つまり〈シトリン〉とは新自由主義思想の寓意であり、本作はそんな新自由主義思想という欲望に踊らされている人々の寓話なのだ。
大体、あんな事は1984年に起こっちゃいないのだから。子供時代を過ごした自分が保証する!
まぁ、意図としてQ・タランティーノ&マシュー・ヴォーン流歴史改変的批評をしているのかも。
だから、見れば一目瞭然な本作のラスボスであるマックスの容姿は現職大統領のドナルド・トランプに似せているのも意図的だ。欲望を開放した果てに誕生したのがヘイトと分断を象徴する人物であるトランプ大統領なのだと暗に示しているのだから。-- 実は「本作のマックスはドナルド・トランプですよ!」と分かる仕掛けもある。ヒント:大統領執務室。
また、サブのドラマとして「アメリカ的な世界では愛されない人々」も描かれる。ラスボスであるマックスは息子や回想シーンから白人ではなくて南米系、しかもどうやら経済難民でアメリカで過ごしてその貧困から抜け出して頂点へとのし上がるためだけに今回の陰謀を企てる。つまり彼の欲望とは〈シトリン〉で何かをしたいわけでもなく、過去をおそれ、この競争世界の負け犬になるのを恐れて、ただNO.1になることだけなのだ。つまり別の視点から言えば、マックスは「悪党」というよりもただ、「哀れな」キャラクターでもあるのだ。
そして、ワンダーウーマンに対抗する正体不明の敵もまた、「自分はこの世界に愛されていない」と感じ、それ故にダイアナに憧れ、対抗しようとするキャラクター造形になっている。これは本作を撮ったパティ・ジェンキンス監督の『モンスター』(2003)にもつながるモチーフだ。
そんな傍から見てどうしようもない世界を肯定するキャラクターとして登場するのがスティーブ・トレバーだ。前作でも当時の常識から逸脱していた、人の裏表・善悪を骨の髄まで知っているはずなのに、それでも人の明るい面を信じている「規格外の男」が本作でも、この絶望的な世界を救おうと行動するのであり、その行為はダイアナの想い人と同時に「良心」そのものでもある。ワンダーウーマンことダイアナが戦う理由はスティーブが「それでも人を信じて」いるからだ。
そして、クライマックスはそのスティーブの信念が大勝利する。それは彼が信じた世界の美しさなのだ。
ただ、この部分は、本作のクライマックスとの絡みを含めて前作を観ていなければピンとこないところでもあり、ドラマの締まりとしてはあまり良くない。そして、身も蓋もないことをあえて言えば、スティーブというキャラクターを理想的に描き過ぎている。もちろん作り手達にもその自覚はあって、そう感じさせないように本作ではどちらかと言うとお笑い担当になっている。だが、理想的なのは変わらない。
そして、単純に娯楽としてもあまり良くないところがある。具体例を出せば、最終決戦兵器の雑な扱われかたと、そのケレン味が足りなすぎる。そこを疎かにしてどうする!
また、親子で観る映画にもかかわらず、上映時間が151分は長すぎる。特に巷では評判がいい冒頭の大運動会はドラマの視点からもアクションの構成からも無い方が、全体の締まりが良くなるのに、そうしないのは前作からのファンに向けてのサービス以外に考えられない。しかし、そこを無くして、かつ大統領執務室などのシーンを巧く省略できれば、もっと良くなっただろう。
つまりメッセージとしてはグッド!だが、作品としては、あまりよろしくないのだ。
しかし、自分は本作を好きとまではいかないまでも気に入っている。それはエンドロールだ!あのエンドロールを観ると本作の批判などできるはずがない。
エンドロールでOK!
劇場で鑑賞。
Wonder Woman 1984 – Official Trailer