ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
今日のポエム
俗物たちと愛情と
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
そして、キーワードは。
出版論!
今回はネタバレスレスレのニヤニヤ解説モード。
うん、騙されたというよりも笑った!
だから、本作はミステリーのコンゲームではなくてコメディ、喜劇!
でも、喜劇といってもゲラゲラと笑わせるモノではなくて、ある風習、風俗を揶揄する意味での喜劇。映画でいえば、シドニー・ルメットの『ネットワーク』(1976) に本作は近い。
つまりは、インテリゲンチャを露悪的に描いて「こいつら馬鹿ばかりだな」とニヤニヤして愉しむ喜劇。
そしてぶっちゃけ、ドラマは出版論だと思うんだ!
だから、出版業界をリアルではなく、戯画化・カリカチュアとして描いている。
物語は大手出版社の薫風社で、廃刊寸前の雑誌〈トリニティ〉で編集長をやっている大泉洋演じる速水が社長の死去によって勃発した、営業から専務まで上りつめた東松と老舗の小説誌から出世した常務・宮藤との権力闘争に巻き込まれながら〈トリニティ〉のためにあらゆるアイディアとテクニックを使って雑誌を存続してゆく流れになっている。
つまり、企業ドラマに良くある構図、伝統VSリストラだ。
具体的には、その伝統という、ふんわりと良く分からない何かに振り回されるある人物の状況と、また出版社の上位階層に存在する小説誌、〈小説薫風〉の立場に立つ宮藤の俗物ぶりを描き、それに対する営業からの叩き上げの東松が進める自社の出版取次システム〈KIBA〉-- 本作の牙はコレにかけている -- を立ち上げ出資を抑制するための企業再編成(リストラ)側の視点で描いてくる。
それでは速水はどの立場を支持するかというと、彼は彼なりの第三極、コンテンツ(情報サービス)で伝統とリストラの間に割って入り込む。つまり本作で速水が良く口にする「面白い事」とはコンテンツとしての魅力を指している。
だから構図は伝統VSリストラVSコンテンツの三つ巴の闘いになり宮藤と東松の俗物ぶりを横目に速水の活躍を笑って愉しむのかと思いきや、そうはならない!
実は、本作の主役は速水ではない。彼は、宮藤、東松とは違う切れる人物として設定されている。つまり、あまりにも切れすぎて危険な男だ。露悪的だ。
さらに実は、を加えると、本当の主役は伝統(宮藤)側とリストラ(東松)とコンテンツ(速水)の間を行き来して人物で、そいつは思いもつかないアイディアでギャフンと云わせるのである。しかも愛でだ。最後に愛は勝つ!
ここまで来ると本作のメッセージが、騙し合いバトルでなく、「ジリ気味である本(雑誌)とそのあるべき姿」を提示しているのが見えてくる。なので出版論。
だから、伝統、リストラ、コンテンツの3者を露悪的に描いに描いて、最後は洒脱に落とす。という極めて気持ちいい仕上がりになっている。
だからこそラストシーンがピタリとキマる。
そして確かに、これは『霧島、部活やめるってよ』(2012)の吉田大八監督作品の味だ。
取りあえず観終わったあとに「あっ!」と驚くよりも「( ̄ー ̄)ニヤリ」気持ちになるのは確かだ。
劇場で鑑賞。