ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
アメリカの田舎町エバンズ・シティに暮らす男が、何の前触れもなく妻を殺し、家に火を放つ。やがて防護服を来た兵士たちが現れ、伝染病の発生を理由に住人たちを強制連行していく。しかし、実際には伝染病は発生しておらず、町の付近に墜落した軍の輸送機から生物兵器トリクシーが流出し、町の水源を汚染して住人たちを凶暴化させていたのだった。事態の表面化を恐れた政府は軍に町を完全封鎖させ、さらに町を焼き尽くすため核爆弾を積んだ爆撃機を出動させる。
シネマトゥデイより引用
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
今日のポエム
低予算作品
今回はネタバレスレスレのアンニュイ解説モード。
最近、ジョージ・A・ロメロ幻の作品といわれていた『アミューズメント・パーク』を観たのだけれども、これが思いの外にシンドイ内容で、今の自分の心として語るのは難しい。
そこで今回はそれと一緒に特別上映された本作について語ってみたい。個人としての思い出として本作はビデオで観た思い出があるのだが、やはりビデオ画質なので綺麗な画で観ておこうと思ったことと、それを観る時間的な余裕があったから。
でもロメロ作品といえば、誰もが思い出すのはゾンビ映画の嚆矢である『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968) の監督であり、そこから連想されるのはゾンビというジャンルを創設した人物でそこも語るべきなのだろうが、今回はそこには踏み込まない。
だって沼なんだもの。しかも底なし沼。
ゾンビに関しては詳しい者は多くいる渦中に<ゾンビ楽しい幼稚園>くらいの知識・情報しかない自分がアーダコーダ言うのはハツキリ言って無謀極まりない。
なので、今回は本作について、とりあえずは当たり障りの無い事でお茶を濁す。
まず、観る際に頭に置いておくのは二点。最初は本作は低予算映画だという事。
メジャーではなく独立系であり、制作当時でも日本円にして一億円行くか行かないかの予算で撮られているためにアレレ?と感じる箇所が結構にある。それがはじめて本作を観た自分には想像していたモノは違った印象を与えていたところがある。早い話がチャチいと感じたのだ。
どのくらい低予算かというと、ヘリが銃に打たれて煙も出さずに谷の向こう側に隠れてドカーンという音と共に火煙があがるくらいに低予算。
なので、本作を象徴する白い防疫服などはIMDbにトリビアによると地元の学生が演じているというよりも被っているらしいけど、これも使いまわしているのだろう。(画像はIMDb)
そして本作で一番に金がかかっている火事のシーン。これも最初は廃屋にちょっと手直ししたのかと予想していたら、これもIMDbのトリビアによると消防技術者の訓練にロメロ等撮影者が便乗して撮ったので徹底的に予算を切り詰めていたのが察せられる。
なので、スペクタクルを期待すると肩透かしをくらう。と、いうか昔の自分がそうだった。観終わった後に襲った肩透かしを食らった、なんだかな~の感覚。
二つ目は、ドラマの作りが群像劇だということ。一部ではセミドキュメントタリーと称しているらしいが、それは本作を正しく捉えていない。登場人物に感情移入を拒むスタイルであるからそう評しているのは分かるが、ここで行われているのは一種の寓話であり、細菌兵器とはソレを伝えるための道具立てとしか機能していないからだ。セミドキュメントタリーで捉えるとその寓話の部分が弱くなってしまう。だから群像劇。
それでは何の寓話かと言えば、ベトナム戦争だ。
まず、登場人物なのが当事者である町の人々と、細菌を研究している科学者、現場責任者である軍人なのは物語の展開上で分かるが、さらに最高意思決定機関である政治も描写されるから。しかも大統領まで。低予算作品なら真っ先にカットされても当然のことなのだが、それしなかったってことは本作が簡単なパニック作品でないことを示すからだ。
そして、作中で狂ったらしい牧師が自身を燃やすシーンがあるが、これは1963年6月11日、当時の南ベトナム政権が行っていた仏教徒に対する高圧的な政策に抗議するためにサイゴン(現・ホーチミン市)のカンボジア大使館前で自らガソリンをかぶって焼身自殺したテッック・クアン・ドッグというベトナムの僧侶の姿を戯画化したものらしいと察するとどうやら本作はベトナム戦争をモチーフにしていると見えてくる。
1961年5月にケネディ政権が共産主義のソ連が支援している北ベトナム勢力に対して南ベトナムを支援するために当時騒乱状態ベトナムに自国軍を派遣して戦い。そして敗北・撤退した。それがベトナム戦争。
そのカルカチュア戯画化が本作。
その視点から見れば、さっきまで一般人だったのに感染したとたん発狂して暴れ出す様は、さっきまで農作業をしていたのに次の瞬間に襲い出すベトコンそのままイメージで、お偉方の右往左往ぶりは、デビッド・ハルバースタムが前年1972に発刊した『ベスト・アンド・ブライテスト』で描かれたケネディ&ジョンソン政権下での高級閣僚の戯画化なのだと言うことが理解できる。そしてそれに振り回される現場と、いきなり戦場となった町の人々は戦場指揮官等と南ベトナムの市民そのものなのだという事もだ。
だからラストシーンは、公開当時この状況が泥沼化してゆく現実を示す事でベトナム戦争のこれからを暗示している。-- 現実の戦争は1975年4月、アメリカ軍撤退による南ベトナム陥落で戦争終結。
でも、したり顔で語ってもその辺もすでに多くの識者がすでに出しているはず。
だってロメロ作品だもの。
久しぶりに観直したけど、さすがにチャチとまでは思わないにしろ、やはり予算という身の丈にあった作りにはなってなくて、せいぜい意気はヨシ!と言うくらい。そんな感想。
でも、ロメロはゾンビという、どんな素材でもそれをかければ美味しくなる調味料を発明したのだから、それだけ映画史に残る人物なのは間違いはない
それを考えると本作は試行錯誤中の習作といった感じかな。
そんな無難な締めなのです。
劇場で鑑賞。