ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
南太平洋を航行中の第二玄洋丸は、突発的に発生したA型台風にまこまれて沈没した。船員のうち四人が、放射能の墓場といわれたロリシカ国の水爆実験海域のインファント島で奇跡的に救助され、帰国した。が、意外にも四人は放射汚染症状が全く見られなかった。日東新聞の社会部記者・福田善一郎は、女カメラマンの花村を連れて、核センターに原田原子力博士を訪ねた。船員の一人から無人島と思われたインファント島に原住民が生きていること、さらに原住民が飲ませてくれた赤い汁により、放射能障害はおろか普通以上の体力を取り戻せたことを聞き出した。日本、ロリシカ両国政府の申合わせでインファント島調査隊が結成された。
映画.comより引用
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
今日のポエム
幻想からの攻撃
今回はネタバレスレスレの回顧解説モード。
注意:今回は、公開時と『モスラ 4Kデジタルリマスター版』を本作。それ以外を『モスラ』として表記します。また写真は『モスラ』から参照しています。
午前十時の映画祭で公開された『モスラ 4Kデジタルリマスター版』を観てきたのでその感想を書くぞ。
ちまたではモスラは人気怪獣で、恐怖感を煽るモノではなく蝶や蛾を元にした幻想的な感じの美しいイメージにされていて、女性受けしやすい怪獣として考えているらしいが。その真偽は後述するとして、人気があるのは事実で……
1989年公開 『ゴジラvsビオランテ』10億4000万円
1991年公開 『ゴジラvsキングギドラ』14億5000万円
1992年公開 『ゴジラvsモスラ』22億2000万円
1993年公開 『ゴジラvsメカゴジラ』18億7000万円
日本映画製作者連盟より
と、興行成績という数字にも、その変わらぬ人気の高さが表れている。
その作品がリマスターされただけではなく、当時の劇場公開された形で蘇ったのだから、それは当然に観るに決まっている!
その辺に興味がある方はリンクの方をお読みください。(丸投げ)
まぁ、そんな情報を知らなくても、本作は当時でも力の入った大作なのは、映画関連のちょっとした知識を入れていればすぐに分かる。大作らしく大勢のエキストラが投入されているし、主演に当時の人気コメディアン&俳優のフランキー堺 -- 彼が怪獣映画に出演したのは本作だけ -- が配役されているし、モスラのキーとなる小美人には、これまた当時のテレビ出演で人気が上がりはじめたザ・ピーナツが配役されていて歌を謡うのだから。
あと、合成カットもたくさんある。円谷特撮では最多かも。
もうゴージャス!ゴージャス!
さて後述。そんな本作の展開はシンプルで
A:怪獣映画にはよくある秘境探検。
B:小美人(ザ・ピーナツ)によるオペラ。
C:怪獣による破壊のスペクタクル。
と、この三段階。AとCの怪獣映画アルアル展開の間にBが挟まっているという変り種な構成。劇中では「小美人を見世物にするな」と訴えているのに反して、小美人の歌声も見所になっているアンビバレント。
そして音声は、疑似ステレオであるパースペクタステレオ(再生できる設備がなければモノラル)とは別に、当時としては全国6館しか上映されなかった4チャンネル磁器立体音響(ステレオ)のバージョンが映画館によって上映された。
これは怪獣映画のためというよりも、より多くの大衆に観てもらう工夫として、ザ・ピーナッツの歌声をより魅力的にするための計算だとみたほうがいい。テレビはまだモノクロ&モノラルであったので、そこにカラー&ステレオで歌う彼女達を映せば、テレビに対する優位性は結構にあるからだ。ちなみに本作は4チャンネル磁器立体音響の方。
でも、それが本作の本質ではない。『モスラ』というのは高度経済成長という他国に軍事を任せた体制で経済功利主義走り過ぎた人々(日本)に幻想が攻撃してくる。というのがドラマなのだから。
つまり、風刺だ。
モスラが襲うのは黒部ダム(経済の基盤である電力)、横田(日米軍事同盟)、そして東京タワー(経済成長の最終点としての電波塔)と、その時代のシンボルから見ても間違いはない。それは監督の本多猪四郎の作品歴から見ても分かる。
本多監督風刺の部分はここにも書いた。
でも、その辺りは、中村真一郎・福永武彦・堀田善衛が共同で著した原作『発光妖精とモスラ』とか、本作を分析した、小野俊太郎 著『モスラの精神史』とかにも書かれているので特別に新しい言及でもない。
でも、特出すべきなことは、そうゆう文章にしたら長くなるコトを、本作では、たった一つの映像で成し遂げているところだ。具体的にはそれは、展開がBからCへと代わるコレだ……
これが映像の力だ。映画だ。
もちろんコレに持ってゆくために周到な前フリ&伏線を散りばめているために幻想が現実を攻撃するサスペンスとその後にくるスペクタクルへとの橋渡しとしての役割が巧みに機能して切り替わる。
あと、これプラス別の要素として、モスラという怪獣は幼虫も成虫もワイドスクリーン(東宝スコープ)にこそ、その魅力を発揮できる造形になっているところも指摘しておきたい。
横長のワイドスクリーンこそが、この怪獣の美しさを引き立ててくれているからだ。
そうした要素が、他の怪獣(モンスター)作品との差別化に成功して、異色作にして唯一無二の感じに仕上がっている。
だから、今回のリマスター版は、あの時の感動を再現したともいえる。
だが、ここからは自分の持論だが、風刺というのはその時の題材を扱っているので、やはり生モノであり、生モノなら、それはいつかは腐って朽ちてゆく。
本作もその例に漏れず、当然にその辺りは現在では腐ってしまっている。
腐ってはいるが、その代わりに朽ちて残って現れたのは小美人(ステレオ)&モスラ(ワイドスクリーン)という幻想的な美しいイメージなので。それが怪獣ファンだけではなく、多くの大衆の記憶にも永遠として刻まれたのだから、これはコレで結果オーライを言うべきなのだ。
劇場で鑑賞。