えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

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お題「ゆっくり見たい映画」

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

 

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昭和恐慌により拡大する貧富の差に皇道派の野中、河野、磯辺、栗原、中橋は財閥・大臣・官僚を抹殺し天皇を中心とした独裁政権を作ろうと2月26日、雪の降りしきる夜にクーデターを実行。多くの大臣、官僚、当時の総理をも暗殺。軍部は彼らの行動に理解を示し、クーデターは成功したかに見えた。しかし、それは事態を収拾しようと画策した政府と宮内省による必至の時間稼ぎで、首相が生き延びていた事がわかると事態は一変、政府は天皇の勅命により原隊に戻るよう呼びかけ軍に戻ろうとする中、当初から消極的で、やるからには逆賊になる覚悟だった安藤輝三だけは、天皇の意思一つに手の平返しで軍に戻ろうとする彼らに怒りを爆発させる。

Wikpediaより引用

 

今回はネタバレスレスレの解説モード

 

本作は1936年(昭和11年) 2月26日に起こった陸軍青年将校らが1,483名の下士官・兵を率いて起こした日本のクーデター未遂事件を、主に決起した将校達の視点で描いている。

 

226事件とは昭和初期、陸軍内の派閥の一つである皇道派の影響を受けた20歳代の一部青年将校が政治腐敗や農村困窮の要因と考えていたところの元老重臣さえ殺害し、天皇親政を仕切り直しをすれば、諸々の政治問題が解決すると考え、昭和維新、尊皇斬奸」をスローガンに、岡田啓介内閣総理大臣鈴木貫太郎侍従長、斎藤實内大臣高橋是清大蔵大臣、渡辺錠太郎教育総監牧野伸顕前・内大臣を襲撃、(岡田と鈴木は殺害を逃れた)首相官邸、警視庁、内務大臣官邸、陸軍省参謀本部陸軍大臣官邸、東京朝日新聞を占拠した。彼らは陸軍首脳部を通じ、昭和天皇昭和維新の実現を訴えたが、天皇は激怒してこれを拒否。自ら近衛師団を率いて鎮圧する意向を示したために。事件勃発当初は否定的でもなかった陸軍首脳もこれを受けて彼らを「叛乱軍」として武力鎮圧することを決定。占拠先を包囲して投降を呼びかけた結果、将校たちは下士官兵を原隊に帰還させ、一部は自決したが、大半の将校は投降し裁判ののち首謀者、ならびに将校たちの思想基盤を啓蒙した民間の思想家を銃殺刑に処された出来事だ。

 

本作ではサラリとしか語れられていないが、事件の背景にあるのは決起した皇道派のよりどころとなったのは当時の思想家であり国家社会主義であり社会運動家であった北一輝が提唱した、明治政府が打ち立てた「天皇の国民」の解体。つまり臣民を否定し、「国民の天皇」であるとし、基本的人権が尊重され、言論の自由が保証され、華族貴族院は撤廃、そして男女平等社会、男女共同政治参画社会などを目指した統治形態であり、早い話「天皇中心による社会民主主義国家」を打ち立てる事を目標にしていたのを決起将校らは実現しようとしたのだ。ピンとこない人もいるのかもしれないが、簡単にまとめてしまえば戦後日本の政治形態とほぼ同じと言ってもよい。

 

脚本は『仁義なき戦い』(1973) の笠原和夫

 

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この頃、笠原は『二百三高地』(1980) の興行成績の成功を得て、戦争大作の脚本を手掛ける事が多々あって本作もその一部である。

 

実は、本作は笠原が考えたの構想どおりにはいかなかった。当初では昭和の壬申の乱と捉えて決起将校の背後に昭和天皇の弟宮である秩父宮の存在を匂わせる終わり方にしようとしていたが、制作の松竹に書き直しを求められコノの物語になっている。

 

余談だが、本作を製作したのは奥山和由は所属していた松竹に『釣りバカ日誌シリーズ』などのヒット作・話題作を世に出した敏腕だが、改革のためなのか、それとも東映にあこがれていたのか、ホームドラマ中心だった松竹にバイオレンスを導入した人物でもあり、本作もどちらかというと松竹色というよりも東映色に近い。

 

さらに余談かつ個人としての邪推の類だが、本作では決起将校らを鎮圧しようと昭和天皇に対して、笠原は批判的な立場をとっている。最後のセリフが「天皇陛下万歳!」だからだ。これだけでは理解できないが、笠原はかつて自脚本である『大日本帝国』(1982) で本作と同じセリフを昭和天皇への抗議として湾曲的に行ったからだ。

 

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大日本帝国

さらに付け加えると、本作公開と同時期に発売された文庫本のあとがきにクーデターが成功して彼等が主導権を握っていたなら対日戦への泥沼化も避けることができたかもしれない。みたいのまで書いて、決起将校らへのシンパシーを露わにしている。

 

その彼が、「天皇陛下万歳」のセリフを出したのなら、それは皇道派将校らの願いを聞き入れなかった昭和天皇に対する批判と見るのが筋だろう。

 

監督は五社英雄

 

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五社作品の大雑把な特徴は情念が炸裂する演出とどぎつい映像が売りのところがあるが、本作ではその辺りは影を潜め、どちらかというとおとなしめだ。

 

つまり、モチーフに対する情念・ドラマが良く分からない。

 

それよりも注目をするべきなのは美術の西岡善信と撮影の森田富士郎だろう。

 

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昭和初期を再現したオープンセットや、鮮やかさではなく愚図んだ色合いにするために市川崑監督が『おとうと』(1960) や『幸福』(1981) で使った銀残しをフィルムに行い作品のトーンを整えた二人の役割は大きい。

 

そして、当時としては見事なまでのオールスター出演の作品でもある。これ以上の配役は本作以降はないのではないかと思うくらいにだ。

 

要するに中身は頼りなさげだが、外側はしっかりしているために、深く考えなければそれなりに観れる出来上がりになっている。

 

映画を悪評する言葉に「エンジンを積んでいないキャデラック」というのがあるが、本作はまさしくそれだ。

 

とはいえ、外側だけでもというのは、本作がアミューズメントとしての昭和初期を体感できる仕様になっているのもまた確か。

 

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情念をすっ飛ばしてファッションに徹したゆえの結果オーライになっている。

 

個人的な話をつけ足せば、学生の頃上映館で本作を観た時の客層がほぼ老人だった思い出がある。ただ観ていた彼らは本作をどう見ていたのだろうか?

 

本作を観直して、つい思い出したので書いてみた。

 

とりとめもないが、ここで終わる。

 

参考:

昭和の劇: 映画脚本家笠原和夫

2/26

映画撮影とは何か

 

VODで鑑賞。

 

 

 

 

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