ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
夏の日の箱根。首相と会談を終えた米特使一行の帰路を、テロリストの一団が狙っていた。一行の車が近づき、手榴弾が投げられようとした一瞬、空から一台のヘリコプターが急降下し、一人の男がテロリストたちを狙撃した。滝村憲--米諜報機関工作員、銃の名手である。ある日、来日中の中共貿易促進使節員楊が、米大使館に逃げこんだ。楊の逃亡をたすけた憲は、その夜、中共側の工作員三宅に狙撃された。憲は反射的に弾丸を避けたものの、それは通行人を負傷させていた。有村沙織がその人だった。憲は女工作員薫に手当の依頼をすると、次の任地で北朝鮮からの密入国者を射殺した。所持品から中共側のスパイであることが判明、逃亡した楊との関連に、疑惑が持たれた。拷問の末、楊は自分の目的が、東京で武器商人ローズと武器買入れ交渉をすることにあった、と自白した。……
映画.comより引用
今回はネタバレスレスレの解説モード
大詰めを迎えているNHKで放送中の朝の連続テレビ小説『カムカムエブリバディ』は「日本とアメリカ」をモチーフにしているみたいだが、それでふいに本作を思い出して久しぶりに観直した。
本作は東宝ニューアクションの一作に位置にある作品だが、東宝ニューアクションとは、当時はサラリーマン映画の東宝が新たな路線を模索中に送り出した1959年の『野獣死すべし』から1977年『黄金のパートナー』までのガンアクションを主にしたハードボイルド作品群のことを指すそうだ。
いや、はじめて知ったわ。実は自分は若大将シリーズで超有名だった俳優加山雄三がガンアクションを披露した『狙撃』(1968) 、本作、『豹〈ジャガー〉は走った』(1970)、『薔薇の標的』(1970) の作品群だと思い込んでいたのよ。
ちなみに、加山のニューアクションで自分が好きなのは西村潔監督『豹〈ジャガー〉は走った』。
でも、今回は本作。
これが、ヘンテコなの!
監督は森谷司郎。
森谷司郎といえば『日本沈没』(1973)『海峡』(1982)『小説 吉田学校』(1983) 等々、大作を出掛けているイメージを自分は持っているが、どうやら本領は青春モノの方らしくて、その辺りを知らないので、森谷作品群をうまく掴みきれていないところがある。
それでも図々しく、ひとつ森谷作品からオススメをするとしたら1966年『ゼロ・ファイター 大空戦』だ。
『ゼロ・ファイター 大空戦』マジオススメ!
さて、本作は加山がアメリカ諜報部所属の工作員を演じているのだが、物語はひとりの死に商人をめぐってアメリカと中国との謀略戦を主軸にしながらも、端に自らのアイデンティティに悩む加山と、美術家こと太地喜和子が演じる不思議な美女がそれに絡んでくるのだが、進むにつれ妙なシーンが表れる。
何故か、本筋に関係なく、学生運動のニュース映像が流れたり、加山と太地が駅の構内をさまよっているとそこに若者たちが集まってフォークソングを歌いあげているし……
また、太地が街頭を歩いていると「味噌汁を飲んでらしゃいますか?インスタント味噌汁をどう思いますか?外国で味噌汁が恋しくなりますか?」な妙なインタビューをされたり……
しまいには太地と松葉杖のオッサンが「愛について」のよくわからない会話をするのだ。
ちなみにこのオッサン、クレジットには表記なし。
はじめて観た時は「なんじゃこれ?」だったが、時が経つにつれ、これがどうやら、アメリカと日本人との関係性をモチーフにしていることに気がついた。
これは、「自由」を歌いながらも、自由を抑圧しているアメリカに対する日本の若者達の愛憎みたいなものだというところだ。
まぁ、本作のヘンなところ、駅の構内でフォークソングを歌う若者たちは、公開当時ベトナム戦争真っ只中だったため反戦歌を歌うことで抗議するフォークゲリラを意味している。−− ちなみに歌っているのは主題歌も担当しているフォークシンガーの高石友也。しかし、自分が高石の知っている歌曲は『受験生ブルース』だけという体たらく。
太地と「愛」について説教する松葉杖のオッサンは作家の開高健で、1965年に発足した日本のベトナム戦争反戦及び反米団体であり、良心的脱走兵の支援も行っていた「ベトナムに平和を!市民運動」略称<べ平連>初期の重要人物のひとりでもあったが、本作公開時には、それらの活動からは離れていた。
その彼が「愛」について語っているのだから、それはつまり、アメリカ的呪縛から離れるべき。と説いていると見るしかない。つまり、第三者的な視点を提供している。-- ただ、本作で開高が説いている「愛」とは、フランスの哲学者で実存主義のジャン=ピエール・サルトルが提唱した、アンガージュマンなるものなので、そのまま受け取ってはいけない。
とまぁ、60年後半から70年前半に渡る日本の若者像を網羅しているのだけども、アクションとしては 当時は共感できたのかもしれないが現在では、ただノイズにしかなっていない。
おかげ (?) で盛り上がるはずの敵対する工作員役の佐藤慶との対決がイマイチだという……。
アクション映画のはずなのにアクションとしては成り立っていない苦しさがある。
あの時の熱気・熱情が無ければ、ハテナマークが踊りまくる作品になっている。自分がこのブログでよく使う、「時が経つに連れ腐って堕ちた」モノになってしまった。
でも、そこから薄っすらと感じる、アメリカと日本の関係にも綺麗事ではない思春期的な葛藤ともいえる時代があった事の現れ。
その雰囲気だけは、しっかりとパッケージされているのよ、本作は。
DVDで鑑賞。