ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
注意:今回は核心に迫る内容については言及していませんが、より映画を楽しみたい方には読まないことをお勧めします。
いや〜、あいも変わらず黒ちゃん節だった。
その内容は、天才的な転売屋のセンスを持つ青年こと主人公が荒稼ぎをしつつ転売屋の先輩誘いに素っ気なく断り、傍らで働いていた職場での昇進話もいきなり辞めることで無しにして転売屋として生きてゆくために郊外の一軒家に恋人引っ越し、ひとり若者を助手として雇い稼業をはじめたが、そこから不穏な流れになってゆく。
ぶっちゃけフィルム・ノワール。
もっとぶっちゃけると黒ちゃん版『悪の法則』(2013)
『悪の法則』は主人公が軽い動機から悪事に手を染めるがソコからより深い悪へと遭遇する様を我々はただ眺めている。
そしてココでも転売屋という悪の三下が、より深い悪へと転落してゆく様を観客こと我々はただ眺めているだけ。
マンマ同じよ。
-- あ、でも、本作の主人公はまだソコまでは行ってはいないか。まさしく「一丁目」なので。でも深みに入るのは同じ。
うん、同じだ!(再確認)
ところで、映画ファンの間では、黒ちゃんの作品は「わからん」とか「不条理」とか言われるけども、黒ちゃん自身は作品内でキチンと語ってはいるので、そんなに難しいと自分は思ったことはないし、本作もそう。
まず、主人公が郊外で見知らぬ男達に襲われる展開があるが、この御膳立て、というか情報を漏らしたのは主人公の恋人だと直ぐに判る。主人公がいないとき、恋人は助手に向かって、性的な挑発 -- 主人公を愛してはいない -- をかけるし、男達が襲う寸前にいなくなるし、主人公が家にいない間に帰ってくるしご都合主義すぎる。普通ならそのアンポンタンなシナリオを馬鹿にするが、本作は黒ちゃんなので、「これは意図してやってるな」すぐに悟る。
そんでもって、あの助手も、おそらく郊外に引っ越す前から主人公に目をつけていて、彼を助けるために、ガラスを割らせて偽物をつかまされた情報を遠回しにそれとなく教えて、クライマックスでアナイな行動をする。
何のために?
それは主人公が転売屋だというのがソレになる。本作での主人公は倒産寸前の町工場か医療機器を安く買いネットで高く売る。貧者から財産を奪い富裕層に高く売りつける行為から自分は強者だと思っていた ‐‐ だからそれが態度に出ていた -- でも、主人公よりもさらに上の強者が現れることで自身が弱者だと悟らせるためにだ。
主人公も安く買われて、さらに上の強者(悪)のために働かされる運命。
最強の哺乳類だと思っていたら、いつの間にか俺が搾取されていた件!(なろう風)
これが本作のドラマ。
‐‐ おそらくここの部分が日本的ユニークな格差社会構造における搾取だと評価されて米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表に選ばれたのだろう。
「組織って何?」(´・ω・`)知らんがな。
ドラマを語るだけなら、そこに説明はいらないし、またするべきでもない。
ただ主人公が悪の深みに転落する光景を眺めていれば良い。
でも黒ちゃん演出は情感をできうる限り省き、抽象化するので不条理と思われてもしかたがないところもあるのも確か。
やっぱりヒッチコックのヒッチたんや小津安二郎こと小津ちんの影響なのかね。蓮見重彦さまが喜びそうなのは……まあ、そうゆうこと。
ただ、ソレだと、どれもこれもパターンが似たりよったり同じように受けとられるのは黒ちゃんもヨーク分かっていて、だから作品ごとに配役を変えるのだろうね。
それは、娯楽というのは、まずは誰でもが気軽に観る事ができる間口が広いモノ。と考えている自分とも合致する。
黒ちゃんのは気晴らしにはならんけどな。
劇場で鑑賞。
監督・脚本:黒沢清
製作:永山雅也 太田和宏 臼井正人 松本拓也 五十嵐淳之
エグゼクティブプロデューサー:福家康孝 新井勝晴
プロデューサー:荒川優美 西宮由貴 飯塚信弘
撮影:佐々木靖之
照明:永田ひでのり
録音:渡辺真司
美術:安宅紀史
装飾:松井今日子
衣装:纐纈春樹
ヘアメイク:梅原さとこ
音響効果:柴崎憲治
編集:髙橋幸一
音楽:渡邊琢磨
スタッフ、画像は映画.comより