ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
2007年。捜査官リンは危篤状態にあった幼い娘の事を気にかけながらも証人の保護と警護の現場に駆り出されたとき、謎の一団に襲われて危篤状態になってしまう。13年後、シドニーの大学に通うナンシーは毎夜に襲われる悪夢の正体を知ろうとスピリチュアルの治療を受けていた。そんな彼女に素性の判らない青年リスンが近づき、それを見守る初老の男を巻き込んで、かつてリン等を襲った謎の一団の魔の手が迫る。
『カンフー・ヨガ 』のラストシーンを観た時は「これからのジャッキーはこの “しょうげき” の路線でいくのだろうな」と思っていたのだけれども、今度は何とSFだ!のっけから悪役がスター・ウォーズを思い出させる非日常なスタイルで登場するし、バイオロイドなんて単語も飛び出してくるので、これはガチだ。
意外な気もするが、説明はできる。中国本国では映画はレイティングではなく恣意性の高い検閲なので、例えばマフィアやテロリストなどのリアリティのある悪役は権力を揺るがしかねないので、非現実的な悪役でしかアクション映画が作れない状況がある。
だから、ジャッキーは2017年に『リセット 決死のカウントダウン』というSF映画もプロデュースしているし、本人も東野圭吾原作のSFを中国本土で映画化した『ナミヤ雑貨店の奇蹟 -再生-』 というタイムスリープSFに出演している。ので、もしかしたら現実を題材にしない道も模索しているからこそのSF路線なのかもしれない。それなら、どうして歴史モノではなくSFに力を入れるのか?
ここから自分の考えに入るが、こうした背景には、ジャッキーが現在拠点としている中国映画市場に国産SF映画ブームが起こる可能性があるかもしれないということだ。そのムーブメントにいち早く乗ろうとしたのではないか?と読んでいる。アメリカ本国で興行収入が振るわなかった『パシフィック・リム』が続編を作れたのも中国での興行収入が良かったからであり、その下地は十分にあったが、中国にはアメリカ(イギリス)の『2001年宇宙の旅』や東欧の『惑星ソラリス』、日本だと『日本沈没』といったその国を代表するSF映画がなかった。それが、これから中国に生まれるかもしれないからだ。
発端は中国のSF作家劉慈欣(リュウ・ジキン)の著作『三体』が世界的評価を受けたからだ 。日本での翻訳が無いので自分も概要程度しか知らないが、他の惑星人との抗争を描いているらしい。ただ、アメリカ有名なSF賞のヒューゴー賞を受賞していたりFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOやオバマ前大統領が愛読している事実からも、その人気振りは察せられる。もちろん映画化もされていてIMDbによると現在はポストプロダクション中だ。
そして同じく劉慈欣の短編小説『さまよえる地球』を映画化した『流浪地球』が2019年に中国で公開予定になっている。印象だけでいえば『妖星ゴラス』を壮大にした話らしいが、何しろ中国初の本格SF映画なのでこの映画の興行収入しだいでSFブームが中国に起こる可能性があるからだ。つまり、1980年代に『スター・ウォーズ』の大ヒットで世界中に巻き起こったSFブームが、当時はまだ蚊帳の外だった中国国内で今から起ころうとしている。かもしれない。
だから今回の『ポリス・ストーリー REBORN』が日本人の自分からみたら唐突な感覚は逆に娯楽を撮り続けていた映画人であるジャッキーの鋭さかもしれないという事だ。
ここから映画の感想に入る。と、いっても印象程度だ。
まず、色だ。今作は原色を強調してけばけばしくサイケデリックになっている。どうやらデジタルで色をいじっている。これがレオ・チャン監督のセンスなのか、それとも『ブレードランナー』の様な「未来感」を狙っての事なのかは判らないが。
次に今作はジャッキーの「老い」を強調したつくりになっているところだ。白髪交じりの髪でオペラハウスなどのスタント無しのアクションをするが、かつての長回しで一気に見せるスタントとアクションは無くなり、カット割りで魅せてゆく。象徴的なのは、あるSFガジェットを使って、「古いジャッキー」を切り離して、そこから「新しいジャッキー」が敵役を倒すシーンを入れてくる。
そしてジャッキーの映画を観続けた人にはニヤリとするシーンも多々ある。
つまり、娯楽としては、香港的ではなくハリウッド的に変化したのが今作だ。そうゆう意味ではまさにREBORN(再生)でもある。
それでも「楽しませる」という本質としては香港の時と変わってはいない。つまり、どのように変化をしてもジャッキー本人は変わっていない。
月並みな締めになるが、次はどんな「驚き」を仕掛けて来るのか楽しみではある。
BLEEDING STEEL Trailer (2017) Jackie Chan