えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

晩酌で観た『新幹線大爆破』

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

新幹線大爆破 | 内容・スタッフ・キャスト・作品・上映情報 - 映画ナタリー

 

あの『新幹線大爆破』がNetflixでリブートされると聞いたので勢いで何度目かの鑑賞。

 

物語を掻い摘むと、時速80キロ以下になると爆発する爆弾を新幹線に仕掛けた犯人と爆破を阻止する国鉄(現:JR)と彼等を逮捕しようと捜査する警察の三つ巴えの攻防を描いている。

 

結論から言えば、これもかつて書いた『戦国自衛隊』と同じく映画ファンに愛された作品だ。そして今回はその魅力について思うところを語ってみたい。

 

コノ作品、公開当時は70年代パニック映画ブームの一脈として見られていたが犯人が身代金を要求するシーンがあったりするので、本質としてはサスペンススリラーと分類されるべきであり、同じパニックでも『エアポート77’』よりも、その原点である『大空港』(1970)のサスペンススリラーに近い。

 

近いが、コノ作品はミステリー&サスペンススリラーとしては出来が悪い。具体的には……

 

なんで、そこに柔道部が!

 

とか、

 

いきなり、火事かよ!

 

などのサスペンスの盛り上げを偶然に頼ったり、犯人を捕まえるはずの警察が何度も失敗する間抜けとして描かれているからだ。

 

でもこれは出来が悪い脚本というよりも当時の制作会社東映の観客層が背景にある。コノ作品の時代、東映は実録路線に傾注していた。

 

実録路線とは、実話ベースのフィクションで主役や敵役脇役だけではなく端役までも強烈な印象を残した演技をし、実話ベースなので勧善懲悪はない。という混沌と荒々しさを最大のセールスポイントにしていて、以前のストイックで勧善懲悪の任侠路線とは真逆。

 

なので、そんな作品を好むアノ時の東映の主な観客層といえば、頭脳労働のホワイトカラーなどでなく、肉体労働のブルーカラーになっているので彼等に向けて作らなければいけない。それ故にあの展開になっている。

 

さらに言えば、コノ作品の主役は新幹線の運転手でも乗客でもなく、この犯行を仕掛けた側、つまり犯人。

 

彼等が、どうしてこの犯行に到ったのかを克明に描いてゆく。それは犯人側がホワイトよりもブルーカラー側よりだから。なので設定が倒産した下請け工場の社長、学生運動家の元過激派、仕事に溢れた集団就職の青年など、3人は日本の高度経済成長の恩得に預かれなかった負け犬になっている。

 

とまぁ、東映の客層にそって作られたコノ作品だが、ぶっちゃけコケた。

 

その辺りはWikipediaにもある様に、本当はサスペンススリラーなのにパニック方向で宣伝をしていた拙さもあるためではあるが、コノ作品に食いついたのは東映本来の客層ブルーカラーではなくてホワイトカラーが主な鑑賞者だったから。まあ、爆発はあるけど東映客層が好むバイオレンスやドバドバな血みどろは無いしね。

 

そして、本来の客層からズレたためにヒットはしなかったものの普段は東映作品に見向きもしない層が食いついた層がソコに描かれたアイデアに斬新さを感じてカルト的な人気となった。

 

しかし、当ブログを読んでいるのなら、それは風俗であり、今ネタであり、今なので時が過ぎるとやはり腐るので、それだけでは現在でもリメイクされるほどの根強い人気として残っているのかが分からない?だから自分が考える理由は……

 

犯罪映画・フィルムノワールとしての魅力。

 

フィルムノワールのポイントは3つ、魅力的な登場人物、魅力的な犯罪、そして魅力的な破滅。これだ。

 

前述の通り、コノ作品で犯罪に手を染める3人は高度経済成長からの落ち零れ者であり、それ故に固い絆で結ばれているところがあって悪党なのに魅力的な人物設定であり、そんな彼等が80キロ以下になると爆発する爆弾で起こす犯罪はとても気を引くし、それがやがて破滅してゆく、フィルムノワールだ。コノ作品が犯人側の回想シーンをバッサリ切った編集版が世界中で売れたのは、そこが気に入れられたからだろう。個人的な話になるが、コノ作品のフランス版を観た時に回想が無いにも関わらず犯人側が魅力的に感じたので、切ったことで逆に功を奏す結果となった。

 

コノ作品から今ネタというぜい肉をそぎ落としたら本質的魅力が現れたわけだ。

 

その功を奏した中心にいる人物、犯罪のリーダー役に任侠路線で人気が不動となった高倉健

 

新幹線大爆破

スターの彼がコノ作品に秘めたるフィルムノワールに隠し味として効いている。例えるならジャン・ギャバンの立ち位置にある。

 

‐– 余談だが、コノ作品がフランスでロングランヒットした理由は国民好みのフィルムノワールとしてドンピシャだったの愉しんだからに違いない。だって、編集版だけどコノ作品系で1969年にジャン・ギャバンアラン・ドロン、リノ・ヴァンチェラの『シシリアン』があるからね。ちなみにネタバレになるので内容は言わない。

 

そしてコノ作品は日本どころか世界中の映画ファンに愛されて後世の作品等にその影響を与える存在となった。


DVDで鑑賞。

スタッフ

監督:佐藤純彌
脚本:小野竜之助 佐藤純彌
原案:加藤阿礼
企画:天尾完次 坂上順
撮影:飯村雅彦
美術:中村修一郎
音楽:青山八郎
録音:井上賢三
照明川崎保之丞
編集:田中修
助監督:岡本明久

映画.comより

 

 

 

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