ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
近未来。クラッシック車の整備業を営むグレイ・トレイスは妻と平和な日々を送っていた。だが、突如現れた犯罪者集団によって妻を殺され、自身も全身麻痺となってしまう。が、彼の顧客で巨大企業の科学者によって実験的に埋め込まれたAIチップ<ステム>のの力によって麻痺を克服し、人間を超越した身体能力を手に入れる。グレイは脳内で会話する相棒的存在である<ステム>と協力し、最愛の妻を殺害した奴らへの復讐を誓うのだが……。
リー・ワネル監督
注意:できる限り内容への言及は避けますが、抵触しそうな可能性もあるので、純粋にこの映画を楽しみたい方には、ご遠慮くださるようお願いします。
まず、はじめに自分はAIが人類を凌駕して支配するなどとは、露ほどにも考えていない。つまり「寝言は寝て言え」だし、AIで職業が無くなり無職になる不安を感じてもいない。むしろAIから税を取る仕組みをつくって(ここ大事!)、それで楽に生活したいと思っている者だ。だから昨今のAI脅威論はいっさい信じていない。
それに、映画でのAIの語られ方は結構おかしい。簡単にいうと、どうして「人の形」にこだわるのかが分からない。腰に来る二足歩行だし、単体独立系だと劣化した際のメンテナンスにコストがかかり過ぎなので、リスクマネジメントの観点から複数のコピーをとって置いた方が楽だ。つまり『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』や『エクス・マキナ』の形はAIらしからぬ非合理でしかない、むしろ『ターミネーター』のスカイネットや『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の人形使いなどの人の形にこだわらない方が、まだ(あくまでも)合理的だ。
しかし、裏を返せば、フィクションで描かれるAIの脅威とは、人間が「生物界の頂点(こんな考え方は生物多様性から、すでに否定されているのだが)」から下に転落するかもしれない恐れへの表れであり、雑にいえば、人間の「奴隷化・家畜化」への恐れを描いているのだろう。そして今作もその落しどころになっている。ラストのアレなんて早く話、『マトリックス』のアレと変わらない。さらに、ぶっちゃけると『マトリックス』の主人公ネオだって、凄腕ハッカーという裏の顔があるとはいえ上司に叱られてばっかりのばっかり設定だったからこそ反逆したのであって億万長者で女にモテモテの設定だったら、絶対にそうしなかったはずだ。だから今作のアレは正しい!とても正しい!(途中で脱線)
と、まぁ。今作のAIの描き方は通俗的すぎてSF映画好きの自分には食傷気味なところを強く感じてしまったが、アクションとなると別で、グレイが<ステム>と切り替わったとたんにカンフーアクションになったところで妙なケレン味を感じたり、他の改造人間との闘いには、やっぱり自分の中にあるB級映画的設定好みのガキ心が相当うずいたのも確か。正直、この設定でシリーズ化してほしいとも思った。これなら21世紀版『600万ドルの男』や『ナイトライダー』みたいなテレビドラマにもなりそうだし、また<良いステム>と<悪いステム>が戦う平成仮面ライダー的な展開にしたら面白いじゃん!
あと、中華映画でこのアイディアとパク……もとい応用して、悪を倒すために、様々な流派のデータをその都度に入力された<ステム>が、なんか活躍するアレ的な。『カンフー・トラベラー』みたいなシリーズもできそうな気がする。それはともかく制作会社のブラムハウス・プロダクションズ是非にご一考を!
そんなこんなで、内容よりも観終わったあとの妄想が捗った映画でした。
最後に今回インスパイアされたseicolinさんの『カンフー・トラベラー』シリーズのリンクを貼って置きます。
UPGRADE (2018) – Official Red Band Film Trailer