ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
名匠・黒澤明監督の代表作の一本。江戸時代も終わりのころ、二つのヤクザが対立する寂れた宿場町にぶらりとやって来たひとりの浪人。自らを「桑畑三十郎」と名乗るその浪人は巧みな弁舌と凄腕の剣でヤクザどおしを煽り、その対立が頂点に達しようとした時に新田の卯之助が三十郎の前に現れる。
自分が「モノクロ映画でおススメするとしたら何?」と聞かれてすぐに思い出すのは、この『用心棒』とキャロル・リード監督『第三の男』とチャールズ・ロートン監督『狩人の夜』だったりする。勝手な思い込みだが、カラーにすると面白さが減ってしまう意味でこの三作は強い感情が残っている。マンガで評すると、「(第三の男)マンガみたいな見事なベタ塗り」、「(用心棒)このマンガのかけ編みは細かい」、「(狩人の夜)マンガのスクリーントーンってこんなにあるの!?」だ。『用心棒』は被写体深度を深くするパンフォーカスとそれに不向きな望遠レンズの組み合わせでマンガのようなかっこいい画づくりが今でも魅力的でもある。
そして多くの人が指摘するとおり、この映画はモノクロであるがゆえに血みどろのバイオレンスよりもアクションとしての爽快感が目立つ所だ。これはジョージ・ミラー監督『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』を思い出せばピンとくるかも。以上の二点が、この映画がモノクロでなければ魅力的には見えない理由だろう。
だけども自分が妄想してしまうのは「黒澤監督がモノクロでしか三船を撮る自信が無い」だからこそ、黒澤映画の三船はモノクロなのでは?ということだ。本来なら『影武者』の信玄や『乱』の秀虎も三船が演じても良いはずなのに、そうはなってはいないし、不仲説は松田美智子 著『サムライ 評伝 三船敏郎』を読むとなさそうだし、だとしたらカラーでは三船のギラギラとした感じをコントロールできないと思っていて、それをポロリと三船に漏らしていた。なんて俺物語が出来上がっているくらいにだ。
ドラマの視点としては三船が演じる三十郎と仲代が演じる卯之助が「同じタイプ」の男として描かれているところだ。それは三十郎と卯之助が同じショットで収まるところがあるところからも察せられる。これは続編的位置づけの『椿三十郎』や、それを拡大解釈(?)した森田芳光監督のリメイクもそうなっている。
ともあれ『用心棒』のキャラは三船にとっては当たり役となり岡本喜八監督『座頭市と用心棒』やテレンス・ヤング監督『レッド・サン』などで登場し、テレビ時代劇などにも使用されたらしい。その原点がこの映画だ。……考え(妄想)がまとまらないのでこれで終わる。
YOJIMBO Trailer (1961) - The Criterion Collection