ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
アメリカンコミックであるDCコミックの中から『ジャスティス・リーグ』にも参加しているヒーローの映画化。アーサー・カリー(アクアマン)は海底王国から逃亡した女王アトランナと人間で灯台守のトム・カリーの間に生まれた子だ。アトランナが追手から二人を守るために去ってから年月が過ぎ、アーサーは超人の力を人のために使っている。一仕事を終えた夜、海から現れた女性メラから、弟で現在の王であるオームが海の世界を統一して地上へと侵攻することを聞かされるが……。
いやー面白かった!
前回とんだ醜態を曝したので、仕切り直して観てきましたよ『アクアマン』。
感想は最初に書いたのでこの後は完全な蛇足。
この映画がクリストファー・ノーラン監督『バットマン ビギンズ』からの生真面目から完全に抜け出して陽性の方にシフトすることができたのは、やはり人間界の現実から切り離してほぼ海底界のみを描いているのから。人との関りは目がデカくて真黒なアイツ以外になく、それがさらに神話の側面を強調していたりもする。
その解説はglobalheadさんのアクアマン評を参考にしていただくとよいと思う。
大部分の舞台を海底にしたことで「物語」のアーキテクチャーを衒いもなくやってのけ、結果として『アクアマン』は現代にも関わらず神話を絵本の様に明るく描けたのは確かだ。
それに付け加えるなら、手垢のつきすぎた「〇〇まんがまつり」的な内容を最後まで楽しめたのはマリンアートのクリスチャン・ラッセンを思わせるビジュアルもさることながら、やはり、ここはこの映画を監督したジェームズ・ワン監督の腕によるところが大きい。
だから、熱烈なファンでもないし、全作品を観ているわけでもないのだけれども、かなり粗削りな考えでジェームズ・ワン監督の作風について少し書いてみたいと思います。
ワン監督作品はシーンごとに一点透視図法、二点透視図法、零点透視図法の遠近法を駆使した画づくりと、その組み合わせが見事なところだ。
ここで上げた遠近法とは。
〇点が画面内に一つありそこに向かっているのが一点透視図法。
〇画面の左右に点がありそこからの二つの線が画面内で交わるのが二点透視図法。
〇画面内の平行線(地平線・水平線)画面内で交わらないのが零点透視図法。
ワン監督は、これを意識した画づくりと組み合わせで観客の感情を誘導している。
例えば、壮大な光景を強調する際には一点透視図法の画づくりで海底王国の絢爛豪華さと壮大さを印象づけるようにしているし、情緒的なシーンは当然ながら零点透視図法を使っている。
そして、後半の差し掛かるあたりでアーサーとメラが王の印であるトライデントを手に入れるために退化した海底人で凶暴なトレンチの国に船で入るのだが、トレンチに襲われる際に奴らの群れを船の見張り台に張り付かせて二点透視図法の画づくりをして恐怖感を煽り、その後アーサーとメラを信号灯を光らせたまま海に飛び込む様を零点透視図法の画づくりをしてまさに「手に汗握る」感情を誘導してスリルを盛り上げていた。
つまり、遠近法の種類を組み合わせることで観客の感情を盛り上げているのがワン監督の作風なのだ。その組み合わせは秀逸だ。
実はこうした秀逸な画づくりの組み合わせは、かつてサスペンスの神様と謳われたアルフレッド・ヒッチコックが得意としていたやり方と同じだ。ヒッチコックも遠近法を組み合わせることで、観客の感情を盛り上げていた。それが、良くわかるのは『北北西に進路を取れ』での一点透視図法と零点透視図法との切り替えで演出された主人公が荒野で飛行機に襲われるアノ名場面だ。
North by Northwest (1959) - The Crop Duster Scene (4/10) | Movieclips
ちなみに今作ではシチリアでの瓶を覗くシーンでヒッチコック監督の『逃走迷路』のワンシーンを思い出させる様なところもある。
しかし、これだけだとワン監督はヒッチコックのコピー(それだけでもスゴイのだが)をしているだけなのだが、ヒッチコックが当時できなかったことを彼は現在のデジタル技術を使って表現している。それは、こうした一連のシーンをカットを割らずに見せているところだ。その一部が動画として公開されている。それがはじまるのは3分18秒あたりからシチリアでのアクションの一部だ。
映画『アクアマン』特別映像5分【HD】2019年2月8日(金)公開
この公開動画を以下の様に分解するとこうなる。
走る追手(一点透視図法)
逃げるメラ(零点透視図法)
メラからのズームアウト(一点透視図法)
爆発(一点透視図法)
爆発からのズームアウト(二点透視図法)
これで爆発までの各要素をデジタル編集で繋いでワンカット風(現実では撮影不可能なシーン)にしているので観客には観ていてとても気持ちの良いシーンになっている。
そうした現在のデジタル撮影技術を自分の表現方法としてキチンと落とし込んでいるところはワン監督は、現代のデジタルな溝口健二こと『ROMA/ローマ』を撮ったアルフォンソ・キュアロン監督と同じ位置にいる新しいタイプの映画監督ともいえる。
と、偉そうに書いてはみたけどそれを見つけたのは自分ではなくて、しーまんさんのブログから。
なので、自分はそれにヒッチコック作品との類似を見出して書いているだけなのだ。
つまり『アクアマン』は『ファースト・マン』と同様に感動をドラマの段取りではなく、自分の語り口、つまりほぼ演出だけで描いている。違うのは「何を題材にしているのか」の違いだけだ。ワン監督以外がコレをあつかっていたら良くて普通の面白さにとどまっていたかもしれない。だから、もしかしたら題材のせいで本当の評価は、かつてのヒッチコックやスピルバーグと同じ道へと行く危惧もある。
でも、まあ固い話は別にして、醜態の挽回と作品も面白かったし今年のベストに入るだろうと思うので今更ながら書いてみました。
Aquaman - Official Trailer 1 - Now Playing In Theaters
Aquaman (Original Motion Picture Soundtrack)
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