えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

『空母いぶき』ネタバレスレスレの想定外な雑感

お題「最近見た映画」

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

 

f:id:ko_iti301083:20190530235817j:plain

 

かわぐちかいじの同名マンガの映画化。20XX年12月、日本の最南端沖で東亜連邦と名のる軍事勢力が領土の一部を占拠し、海上保安庁の隊員を拘束する事態が発生した。日本政府に緊張が走る中、その対処に向かうのは航空機搭載型護衛艦<いぶき>を中心とした護衛艦群。しかし、日本国憲法下での専守防衛というかがげる日本では攻勢で対応するわけにはいかない。こうして<いぶき>にとって厳しい闘いが始まった。

 若松節朗監督

 

原作は未読なので、当てずっぽうを承知で書くが、このジャンルの悪役というよりも仮想敵は大体が当たりさわりないものだ。トータル・フィアーズ』はネオナチやKKK極左集団だし、エンド・オブ・ホワイトハウス宣戦布告みたいに、どう見てもアノ国なのにボカしたりするものなので、この映画もそうゆう方法にもってゆくのかなと漠と思っていたが、なんとこちらの予想を超えた設定を提示してきた。まさしくまさしく「想定外」である。そして、その設定の解釈によって、またコレが作品のメッセージと評価が左右されるやっかいなモノなのだ。

 

この映画の仮想敵は東亜連邦という架空の敵だ。冒頭の説明によると南シナ海島嶼(とうしょ)国家でその中のひとつが過激な民族主義を掲げ東亜連邦と名乗り、日本のある群島を占拠して自国の領土として宣言することからはじまる。「中国じゃないのかよ!」という誰もがしたであろうツッコミはあるのだろうが、自分は別のツッコミをした。「中国が衰退してんじゃん!」。

 

中国の民族弾圧で誰もが知っているのはチベットウイグルだろうが、後者のウイグルイスラム教なのにそれがイスラム過激派と結びつかないのは、やはり現在の中国の経済的な影響力の大きさと、その闘いがアメリカを中心とした西欧諸国なので中国へのテロのネットワークが構築できていないからだ。

 

だから、もしも破られる予測があるとしたら、それは中国の経済力と軍事力が衰退した時でしかない。

 

また、中国は領土で大きな問題を抱えている、台湾だ。台湾は歴史でみれば毛沢東率いる中国共産党共産党)と蒋介石率いる中国国民党(国民党) が中国本土での闘争に敗れて台湾へと逃れて樹立した政府だ。紆余曲折があって現在は中華の統一よりも国としての台湾の独立を望んでいる。つまり共産党中心による中華の統一と国民党による独立がぶつかっている構図になる。

 

それが最悪の状況までにならないのは経済成長が著しい中国を敵に回すと利が合わないからでしかない。しかし、その経済成長が衰えると台湾独立を支持する人々が共産党、中国の影響力をさらに削ぎにかかるのは容易に想像できる。もちろんそれには台湾以外の国、例えばロシアなども動くだろう。

 

つまり過激な民族主義と資本が結びつくと東亜連邦のような武装集団の誕生シナリオはかならずしも荒唐無稽とはいえない。

 

ここまでくると察しただろうが、東亜連邦とは海のイスラム国なのだ。

 

それはなんと、舞台となる南シナ海ボスニア・ヘルツェゴビナやシリアのような内紛状態直前になっているという設定になっているのだ。「想定外すぎるぞこれは!」。

 

だから、自国のシーレーンが脅かされているにもかかわらず、紛争の口火を切りたくないがためにアメリカは第7艦隊を派遣することを躊躇するのも分かるし、クライマックスのシーンに一斉にアレがに集まってアレを出すのも分かるって……随分とぶっ飛んだ設定だなこれ!自分は正直これでコンビニ云々はどーでもよくなった気分になったことは確かだ。

 

もちろん、これには中国の衰退が前提になる。中国にも日本と同じ少子高齢化問題が成長に横たわっているので、可能性は大いにあるが、もしもその問題が解決できれば東亜連邦などただの話のタネしかならない。しかし、その設定を受け入れれば、この映画(そして、おそらくは原作も)のメッセージが見えてくる。

 

専守防衛国際紛争解決の国際標準にする」というメッセージをだ。

 

事実、この映画の見所は日本の専守防衛の戦いを魅せてゆく。何かに対して留飲を下げたい輩には肩すかしこの上ないが、このメッセージからすれば、これは当然の展開であり描写でもある。

 

と、ここまでは弁護の方向で書いてきたけれども、結論からいえば平均点以下の出来上がりだと自分は思う。予算が足りなくて苦労しているのは判るが、問題はそこじゃなくて、この題材ならシドニー・ルメット監督未知への飛行のようなポリティカルスリラーなのに真面目に有事シミュレーションとして演出してしまったために「想定外」な設定のに焦点がぼやけてしまっているのだ。分かりやすくしようとする工夫が返って仇になる失敗映画の典型例になっている。

 


映画『空母いぶき』予告編

 

 

映画「空母いぶき」オリジナル・サウンドトラック

映画「空母いぶき」オリジナル・サウンドトラック

 

  

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画備忘録へ
にほんブログ村

映画(全般) ブログランキングへ