えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

【ネタバレ有】これでいいのだ『ミッドサマー』

お題「最近見た映画」

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

 

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www.imdb.com

 

避けられなかった事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人クリスチャンや友人たち5人でスウェーデンのホルガ村を訪れた。彼らの目的は村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。太陽が沈むことがない村は、美しい花々が咲き誇り、やさしい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園としか形容できない幸福な場のように思えた。しかし、そんな幸せな雰囲気に満ちた村は常人におよびのつかない空気が漂い、精神が不安定なダニーの心はさらにかき乱れていく。

アリ・アスター監督

 

注意:今回は核心にふれる言及があります。純粋にこの映画を楽しみたい方には、ご遠慮くださるようお願いします。

 

ようやく自分も『ミッドサマー』を観れたのだが、この映画を自分がは語るのにはちょっと躊躇する。実はアリ・アスター監督の前作『ヘレディタリー 継承』が面白い面白くない以前に自分のトラウマをちょっと刺激したところがあったのでそのまま素通りしたのだが、今作『ミッドサマー』は話のタネに使ったところもあるのでさすがに今回はそうするわけにもいかなかった。

 

eizatuki.hatenablog.com

 

だから、無理をして書いてみることにしたのだが、さすがに話題作だけあって考察はされつくしているし、奇妙な味付けの作品だけあって、単純に「怖い」ではなく「癒し」とか「笑える」とか「バカな女」だとか「前作の焼き直し」とか「何も感じなかった」など感想も多種多様だ。

 

「それではお前の感想はどうなの?」といえば、観終わって数時間後に思い浮かべたのはリドニー・スコットの『ハンニバル』のクライマックス「パカッとモグモグ」と漫画家赤塚不二夫が生み出した『天才バカボン』のキャラであるバカボンのパパの……

 

これでいいのだ

 

だったんだよな……

 

この映画がホラー映画だとしたら……

 

頭がイカれた奴が自分の足とかを切り刻んで、それを口に運んで「あーうめぇ」と自分を食べているのを観客が眺めている感覚といってもいいかも。

 

グロテスクとユーモアが混じり合っているのだ。

 

だから、見ようによってはホラーにもなるし、ギャグにもなる。

 

前作『へレディタリー』もそんなところがあったが、今作でそれをさらに深化させた感じだ。そんな感じになるのは、アスター監督が「恐怖に襲われる人側」の視点だけではなく、「人を襲う側」の視点も入れて非現実的な感覚で描いているところだ。

 

早い話、味付けが純粋なホラーというよりも怪談になっている。化け物が理不尽に襲うホラーの怖さとは違って、怪談の怖さはこちら側(人間)とあちら側(非人間)との境界があいまいになってゆくところにあるから。アスター監督は好きな映画に溝口健二の『雨月物語』や、(ちょっと毛色は違うが)キリスト教と東洋呪術の境界をあいまいに描いていたナ・ホンジン監督の『哭声 コクソン』が好きだとあるインタビューで語っているので、これが彼が気に入っている、かつ自分のスタイル -- 監督自身もこの作品はダークファンタジーと言っている。つまりは怪談だ。-- なのだろう。

 

どうしてあちら側、今作でいえばホルガ村側の視点が入っているのかと分かるといえば、冒頭のド頭からホルガ村風の壁画でこの映画の展開を示しているからだ。あれだと……

 

一番目:ダニーの両親と妹が死んでいる。

 

二番目:悲しむダニーとそれを慰める恋人のクリスチャン。しかし、片手は後ろに回しているので本気でそれをやっているわけではない。

 

三番目:ホルガ村に到着するダニー達。

 

四番目:祝祭をうけるダニー達。

 

これは『へレディタリー』でやっていたミニチュアハウスと同じだ。あれはぺイモン側の視点を入れることで境界をあいまいして不安感を静かに煽っていた。今作だとこちら側(ダニー達)とあちら側(ホルガ村)を見せることで境界をあいまいにして非現実的な感覚を観客に与えている。

 

ただ、境界があいまいになる描写のやり方が東洋人の自分等とはまったく違っている。

 

自分等が知っている怪談とは、自分等がこちら側とあちら側の境界があいまいになってゆく感覚を幽玄というもので受け止めているからでもある。その感覚は、東洋思想や仏教の影響を生活のレベルで自然と自分等が身に着けているからでもある。

 

しかし、アスター監督にはそんな感覚がないのか、それとも(こちらの方が可能性が高いが)、アメリカ人にはそんな感覚は分からないと悟っているのかは知らないが、その境界があいまいになる部分を何故か笑い(ギャグ)で描写しようとする。前作だとそれは顔(芸)だったが、今作ではボルガ村の人々がドラッグを使用しているという設定にして、前作よりもさらに表象化して思わず「ホラーなのに笑わしにかかってるんかい!」と、より積極的に境界をあいまいにしてきた。

 

これが、アスター監督の拗れた感性から来ているのか、それともインテリ -- 内容はインテリが好みそうなデカダンスだから -- としての計算なのかは分からない。個人的な体験からそれがハッキリするのはおそらく長編5作目あたりだろうと見ているが、どうなるだろうか?だから、今はこう締める……

 

これでいいのだ。

 


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