ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
今日のポエム
グルーヴ、グルーヴ。
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
そして今回のキーワードは
敬意の表れ!
今回はネタバレはなし。
本作のタイトルにもあるレニー・ブルースとは1950年代後半から1960年代前半に実在したコメディアンであり、その芸風は当時の社会の矛盾や不満を喋っていた。いわゆる毒舌漫才であり日本だと上岡龍太郎やビートたけしが影響を受けていたらしい。
らしい、というのは自分は彼の漫才を聞いたことがないからだ。もちろん、海外の動画でちょっとだけソレを見ることはできるのだが、英語を読み取る能力がないためその魅力は分からない。
そんな自分がこの映画に興味をもっていたのは、監督がミュージカルの振付師でもある『キャバレー(1972)』、『オール・ザット・ジャズ(1980)』のボブ・フォシーだからだ。もちろん、この二作はミュージカルで、自分も好きだ。(画像はIMDb)
とは言っても積極的に観ようとする気持ちにもならなかったのも本当で、その理由は上記二作に比べて、やはり本作がミュージカルでない事と、それと題材から真面目な社会派作品でないかと推測してしまったからだ。レニーが活躍したのはアフリカ系アメリカ人公民権運動の後期でありベトナム反戦運動の前期でもあり、つまりアメリカの自信とモラルが混乱していた時期でもある。そこに人種・性別・社会状況を痛烈にジョークにした彼の漫才が大衆に受けたのは納得できるし、当局に睨まれたのもよく分かる。そしてレニー自身がいわゆる破滅型芸人なので、つまり、上記の二作より暗くて重い作品だと思ったからだ。
それが、いざ観たらやっぱりボブ・フォシー監督作品だった。
本作は伝記映画にあっても良いはずの堅苦しさ重苦しさが無いのだ。
作りは映像はモノクロで、話の構成はレニーに関わった人物へのインタビューと再現ドラマ風なのだけれども、違うのはインタビューはフェイクで再現ドラマに出ているレニーは無名の俳優ではなく当時すでにスターだったダスティン・ホフマンが演じていることだ。そして、本作にはケレン味(派手さ)とか晴れ場(楽しさ・明るさ)とか一切ないのに不思議な高揚感を感じたから。おそらくそれはグルーヴ感ではないかと自分は考えている。
グルーヴとは音楽用語でブラックミュージックからはじまった感覚で、その曲特有の独特なうねりの感じで聞いている者を魅了して、それがあれば、その曲のオリジナリティとして評価されるものでもある。それが本作から感じるのだ。
そしてそのアンサンブルはやはり監督のボブ・フォシー、主演のダスティン・ホフマン、イーストウッド監督とのコンビも多い撮影のブルース・サーティス、『アメリカン・ヒストリーX(1998)』の編集アラン・ヘイム他スタッフ&キャストの技量によるものだろうが、その根底にはまさしく時代を切り開いたコメディアンに対するリスペクトがあるからだろうとしか思えない。
そして、こんな感覚になったのも、ズルズルとながらも自分が齢をとってきたからでもある。若い時にはドラマだけに注目していたから。
でも、見事な作品だった。
VODで鑑賞。
Lenny Official Trailer #1 - Dustin Hoffman Movie (1974) HD