ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
1953年、ミス・ジェーン・マープルの住むイングランドの片田舎セント・メアリ・ミードは、いつもの静けさが嘘のように賑わっていた。久しぶりに映画に復帰する往年の大女優マリーナ・クレッグや、映画監督である夫のジェイソン・ラッドら、ハリウッドの撮影隊がゴシントン荘に長期滞在し、大作映画「スコットランドの女王メアリー」の撮影が行われるのである。村をあげての歓迎ムードの中、ゴシントン荘ではマリーナがホステスとなって村の人々を招待し、盛大な交歓パーティーが催されようとしていた。
Wikipediaより引用
今回はネタバレなしの回顧解説モード
みんなこんにちわー!
最近は上映中に寝落ちしてばかりいるユーセでーす。
ところで、あなたは映画を鑑賞する際にビールを飲みますか?ちなみに自分は飲まない派。
酔っ払って鑑賞してしまうと数秒を見逃すかもしれないから。
映画の1秒は24コマ!
でもまあ、内実は映画館くらいで、家とか観るときはブログに書く気がない作品は結構にチビチビと飲みながらやっているのが多々ある。
そんでもって、本作も酒をチビチビとしながら観ていたのだが、何故か途中ですっごく面白くなってきたので、観るのをやめて後日の再鑑賞へと。もちろんチビチビはやってない。
でも、本当初観のときはそんなに面白いとは感じなかった。「普通よりもチョイ下かな」な感想。それが変わったのはおそらく自分が色々と知ってしまったから。
そこで、今回は時間が経てば作品の評価も変わってゆく意味深な例として、今回はこの作品を取り上げてみたい。
さて、本作(公開時1980年)は知らない人はいないイギリスのミステリー作家アガサ・クリスティーが1962年に発表した『鏡は横にひび割れて』(原題:The Mirror Crack'd from Side to Side)の原作で、これもまたポアロと同じくらい有名なキャラクター、ミス・マープルを主人公にしたミステリーだ。
どれくらい知られているかといえば、N〇Kが子ども向けアニメにしたくらい。
ちなみにこれ ↑ はネットで見つけた拾い画像。
本作はそれを映画化した。
さて、自分の感情とは別にしても本作は公開当時にそれほど評価が高かったわけではない。ロッテン・トマトもこんな感じ。
The Mirror Crack'd - Rotten Tomatoes
批評家にはそれなりに受けたが、一般ピープルには受けがよくない、てっゆーか悪い。
本作はケネスが監督じゃない1974年『オリエント急行殺人事件』からはじまった、イギリスの映画会社EMIフィルムが制作したクリスティ原作の1978年『ナイル殺人事件』と1982年『地中海殺人事件』との間の1980年に制作された作品なのだが、見所は原作の映像化だけじゃなく、早い話、往年のスター達を一同に会して観客に観てもらうビジネスモデルだが、当時はスター・ウォーズからはじまったSFブーム、というよりも当時としては最新だった特撮を主にしたSFXブームだったので、ナイルどころかイギリスの一地方だけが舞台の本作は往年のスターを並べても華やかで負けているのは一目瞭然。
しかし、本作が意味深的な魅力を放つのは公開をしてから後になる。そのポイントは二つ。
まず、最初は主役のマープルを演じたのが、日本でもテレビ放送されたミステリー番組『ジェシカおばさんの事件簿』を主演したアンジェラ・ランズベリーだということ。
それでは、見比べてみましょう。
変わりません。
ぶっちゃけ、『ジェシカおばさんの事件簿』のジェシカとおんなじ。海外のファンブログもジェシカのキャラは本作を基にしている指摘はあるしな。
そして、さらにぶっちゃけ ると、ランズベリーが本作でマープルを演じたのが54歳!老人を演じるにはまだ若すぎる年齢。
彼女は彼の国の北林谷栄です。(オールド映画ファン向けネタ)
-- ちなみに『影なき狙撃者』(1964) では暗殺者役のローレンス・ハーヴェイの母親としての役どころだったが、年齢差はわずか3歳!
さて、ふたつ目に入る前に寄り道を。他の出演者も曲者揃いで、『めまい』のキム・ノヴァック、『絞殺魔』のミッキー・カーティス、『ドクトル・ジバゴ』のジェラルディ・チャップリン、『ジャッカルの日』のエドワード・フォックス等々とまあプチ豪華キャスト。
でも、その中でも意味深な配役はロック・ハドソン。ココでは映画監督役なのだが、その出で立ちから『断崖』(1941) ケーリー・グラントをイメージしているのは間違いはない。だって~
なー!
さてここから真面目モードになるが、この後1984年にハドソンは自ら同性愛者であること告白してHIVウィルスに感染したことも告白。翌年の1985年にAIDSで死亡。当時の著名人が、それで亡くなった事実にAIDSの恐ろしさを世界中に知らしめる結果となってしまった。
そろそろふたつ目に入る。
実は、本作の主人公はミス・マープルのランズベリーではなく、登場人物のひとりであるマリーナ・グレッグ。それを演じたのは、あのエリザベス・テイラー。伝説的女優で、もちろん、あの20世紀フォックスを傾けたとういう超大作『クレオパトラ』(1963) の主役だ。
そして、美貌だけでなくアカデミー主演女優賞を二度受賞する演技力を備えたまさに「映画の中の映画スター」と呼ばれる人物。まさにハリウッド黄金期を体現しているひとりといってもいい。
このマリーナという役どころ。かつては美貌と演技力で注目をあつめていたが、現在では落ち目になりつつある女優という設定で、まさに当時のテイラーとダブる。
それに関わるかもしれない事象で、本業の傍らテイラーは人道活動にも傾注し、特に知られているのは1980年はじめからはじまったAIDSの流行にいち早くAIDS基金の創始者に名を連らねている人物でもある。当時のアメリカ政体は宗教保守を支持層にしたがえたレーガン政権だったがために、同性愛者からはじまったAIDSは偏見から対策が遅れていたが、それをいち早く対策を行なったひとりにテイラーがいるのだ。
そんな人を配役として推薦したのが先に決まっていたロック・ハドソンだが、その提案にプロデューサーは出演料の高さを予想して躊躇していたところハドソンがテイラーとは旧知の中で彼自身が説得すれば高額にならないだろう。とプロデューサーを諭して、実際に実現し、出演が決まった経緯がある。
そしてその後、ハドソンもAIDSに苦しみ、やがて亡くなるのである。
もちろん、以上のことは本作撮影後に起こったことではあるのだけども、そうした事実を念頭にしておくと、そこに意味深な魅力を感じてしまったのは当然というべきだろう。
そして付け加えると、ハドソン同様ランズベリーも『緑園の天使』(1944) の共演からテイラーとは親しい間がらでもある。
つまり本作は図らずも、ハドソンとランズベリー2人の俳優が大女優エリザベス・テイラーを讃えている体にもなっている。
といういくつかの情報が、ボケーと観ているうちにドッと流れてきて、心の襟を正してしまったのよ!
もちろん、作品そのものにも魅力が無いわけではない。それまで華がなかった本作がソレを放つのは、まさしくテイラー独特の色をした瞳を映し出した時なのだ。
恐ろしきは大女優の目力!
DVDより鑑賞