ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
ストーリー
本郷猛と緑川ルリ子はクモオーグに追われ、ルリ子は機動隊に擬態したクモオーグの部下の戦闘員に捕獲される。だが、本郷はバッタオーグに変身して戦闘員を瞬く間に倒し、ルリ子を救出して山中のセーフハウスに身を隠す。そこに現れたルリ子の父・緑川弘は本郷をプラーナの力によって変身する昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクトの最高傑作として新たな体にアップグレードしたことを明かす。
スタッフ
脚本・監督 庵野秀明
原作 石ノ森章太郎
エグゼクティブプロデューサー 白倉伸一郎、和田倉和利
プロデューサー 小出大樹
撮影 市川修、鈴木啓造
照明 吉角荘介
美術 林田裕至
録音 田中博信
編集 辻田恵美
音楽 岩崎琢
扮装統括・衣裳デザイン 柘植伊佐夫
アクション監督 田渕景也2023年製作/121分/PG12/日本
Wikipediaより引用
今回はネタバレスレスレの誉め解説モード
注意:今回は核心に迫るネタバレは避けていますが、純粋に楽しみたい方には読まないことをお勧めします。あと、1971年に放送されたテレビ作品を本放送と呼称します。
観たぞ。
結論。庵野秀明監督作品だった。
まぁ、そうだよネ~。
では最初に批判から。
ぶっちゃけエヴァだった。
もちろん、物語は仮面ライダーなのだけども、ドラマはエヴァ。マジにエヴァ。
なので、キャラメイクとしての本作の本郷猛は碇シンジだし、当然の対としてゲンドウも出るし、もちろん、惣流・アスカ・ラングレーも出ている。興味深いのは外見が綾波レイで、中身が葛城ミサトなキャラもいる。そして、これに賛同する者はほぼいないとは思うが、本作の一文字隼人キャラは真希波・マリ・イラストリアスなのは間違いがない。
‐‐ でも、あの二人の関係は『ふしぎの海のナディア』も入ってるかも。
とまぁ、ことごとくエヴァ。
でも、自分としてはソノ予想はしていたので、そこに不満はない。ないが、まだそれをやるかー。な気持ちがあるのも、また確かだ。
そして次は称賛。
実は、鑑賞中は「フムフム、こうきたか」で期待よりもチョイと上な気分だったが、その後移動途中にカーオーディオに『レッゴー!!ライダーキック』を流しながら運転をしていたら、ジワジワとさっきまで観ていたシーンよみがえってドーン!と感動する事態に。
なんてゆうか、自分の仮面ライダーはスカイライダーからで本放送から完全に外れていてソコにそれほどの思い入れがないのだが、やはりオタクの血が流れているらしく、本作を否定できない。
本放送を観ていた世代なら、そりゃ絶賛するだろう。
こんな感じ。
ならば、その感情の正体を語ならければなるまいて。
実は、というよりも、ある程度の年代なら常識レベルで誰もが知っている四方山話だが、本放送の初期のライダーは原作者石ノ森章太郎のイメージそのままのダークヒーロー路線で、なので当初は演出も怪奇・ホラーぽかった。
それが、現在まで続くアクション路線になったのは本郷役の俳優が撮影中に事故を起こして出演できなくなってしまい、その穴埋めとして2号こと一文字役が誕生。それから明朗アクション路線へとシフトしていった経緯がある。
そして本作は、その路線に転ずる前のダークヒーロー路線をやっているのだ。
だから、エンドクレジットに流れるのが子門真人の歌なのね。彼の歌声は明朗アクション路線に転じてから誰もが慣れ親しんでいる象徴なので。
だけども、やはり当時放送の仮面ライダーといえば低予算番組であり、その演出も予算不足から歪なモノになっている。例えば、セットが作れないためか、ロングよりも寄りの画づくりが多かったり、アクションは迫力を出すためか、流れよりもインパクト重視で、やたらとカットを割ったり、そのカット割りも何回も同じ動きを繰り返したり、前の場面と違う場所を繋げたりしている。ハッキリいってしまえばチープだ。でも、そこから仮面ライダーは大ヒット作となってゆき、その独特すぎる、スタイル、様式を定着させた。
そんな本放送なので、そこからの映画化は通常なら予算をかけた大作となった本作を撮る際に、今風なVFXやアクションを取り入れてアップデートを図ろうとするが、庵野監督は違った。
当時のチープな雰囲気をもパッケージにした。
あえて、洗練させていない。独特なインパクト重視のカット割りのまま。
そして、そこに石ノ森章太郎が原作で描いたイメージを入れ込んでいる。
読んだ人にはすぐに分かるだろうが、石ノ森の原作は物語も本放送と違っていて、アクション描写も当時としてはストレートというよりもどちらかといえば冒険的・前衛的な描き方になっている。キャリア初期の頃から通常と違う描き方をやっていた石ノ森だが、このあたりはそのピークであり、それが原作にも如実に表れている。
そんな石ノ森の描き方を庵野監督は、あえて本作に取り入れているのだ。そうすることで、本作が二時間以上の映画なのにもかかわらず、単調な感じにならずに、ある種の独特な雰囲気が生まれている。
つまり本作は本放送の様式を再構築している。
沖縄の古酒には、その熟成した香りや芳醇さを保ちながら、酒を劣化させないようにするためにそれよりは少し若い古酒を注ぎ足すことで、古酒の香りを損なうことなく、逆に深めながら、酒の質も落とさないように工夫してゆく「仕次ぎ」という手法があるが、庵野監督が本作でやったのはまさしくソレ。
かつてのアクションに石ノ森マンガを加えることで、作品の質を高めた。
酒なので、「そんなに美味くもないな」と言いつつも、いつのまにか何杯も飲んでいたり、そもそも酒を嗜む年齢(経験)にも達していなかったり、酒そのものが大の苦手な者もいるのは確か。
だが、嗜む者なら、本作は最高の一品。
原材料(ドラマ)はつまらないものだが、それを仕上げた技巧と腕は超一流!
そう、結ぶしかない。
さすがアンノ!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!
劇場で鑑賞。