えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

『バースデー・ワンダーランド』のネタバレスレスレの解説と感想

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

 

f:id:ko_iti301083:20190502060609j:plain

 

www.imdb.com

 

柏葉幸子の児童文学『地下室からのふしぎな旅』をアニメーションで映画化。。誕生日の前日にあることで自己嫌悪になった小学生の少女アカネは学校を休んでしまった。母のミドリはそれを咎めずに代わりにおばにあたるチィの元にお使いを頼まれる。しぶしぶにそれを受け入れてチィおばさんの雑貨店に行ったアカネの前に現れたのは錬金術師と名乗るヒゲが印象的なヒポクラテスと従者のピポ。二人は今、危機に落ち入っている彼らの世界を救うためにアカネを無理矢理に連れてゆく。

 

 ◆原作は児童文学

だから、何?と返されると困るが。つまり、ファンタジーとはいっても、そこに壮大なカタルシスがあるわけでもなく、若おかみは小学生!』のような同年代が憧れるキャラでもなくて、あくまでも読者対象である等身大としての児童のためのテーマ(悩み)と解消が用意されている。ということだ。ここでなら主人公のアカネの引っ込み思案な性格が直ってゆく過程を描いている。それは序盤でアカネに渡されるあるアイテムで簡単に想像できるし、アカネと鏡像するあるキャラを用いて、クライマックス直前に引っ込み思案な自分と対峙している構造になっている。だから、ファンタジーで期待する異世界を覗き見るワクワク感やクライシス感やスペクタクルな盛り上がりはない。

 

しかし、それだと冒険談としての展開 -- 何せ主人公は引っ込み思案 -- に面白みがなさすぎるので(とりあえず)冒険としてのテンションを上げるのは専らチィおばさんだ。前半は彼女がグイグイと引っ張って構造になっていて、だから前述したアカネのテーマの解消はチィおばさんから離れたときにはじまるといってもよい。

 

ちなみに、このアニメ。一見、異世界ファンタジーの要諦になっているが、よくみると妙にヘンな設定になっていて、ソレが料理における隠し味にもなっているのだが、それは追記で書くことにする。

 

◆監督は原恵一

いや、そうだろ!というツッコミは分かるが、原監督の作風の話だ。ようするに「ドラマはあるけどもドラマチックな盛り上がりはない」もっと簡単にいうと「葛藤はあるが、劇的な解消で表現はしない」という、ことだ。また料理に例えると僅かなだし汁に一つまみの塩で味をつけた吸い物のような味だ。河童のクゥと夏休み以降、原監督作品にはその傾向が顕著に表れていて、この今作でもそれは変わらない。具体的にいえば、アニメなのにアクション動画としてのケレン味がない。

 

代わりにあるのが、カラフルな色合いだ。原作品は動画よりも、場面場面を一枚絵でカラフルに魅せる特徴がある。『バースデー』でもそれは変わらない。

 

そしてキャラクターデザインがアニメファンが好むデザインではないし、ましてや対象であるはずの児童が好きになりそうなデザインでもないのだ。あえて云えば「好きになりそうな部分を外してきている」としか思えない。キャラクターとビジュアルをデザインしたイリヤ・クブシノブは本来、媚態的な作品を主にしているのに、それをアニメとして直すと、そうにはならないし、なってない。

 

ここまでキャッチーを外すのは原監督がこれまでの小津安二郎木下惠介への明らかな(リスペクトへ)の影響がある。ココから見えてくるのは、松竹映画、特に松竹ヌーヴェルヴァーグ以降の刺激的なモノよりも、(おそらく)それ以前の「自然体で端正な」松竹大船調をアニメでやろうとしているからかもしれない。

 

松竹大船調とは「庶民感覚で自然体なドラマ」と、「飾らない生活描写」を売り物にしていた娯楽だからだ。ハッキリと云えば、このアニメ映画はポケモンドラえもんジブリよりも寅さん釣りバカのスタンスに近い。

 

だから、松竹大船調に倣いアクションやスペクタクルな場面よりも食事のシーンや旅の道行きのシーンなどが印象にのこるアニメ映画になっている。

 

事実このアニメ、実に「端正」につくられているのだ。作画は丁重だし、アカネの葛藤は解消されて成長 -- エンドロールでそれは描写されている -- しているのだから。ボーっと観ていると平均的な感じだが、松竹大船調の「いつでも、普通に何度でもあきずに観れる」部分をキチンと押さえているので、実は完成度は結構高い。つまり、何度で見も飽きないのが原恵一作品の特徴といっても良い。

 

◆感想とまとめ

 結論は『バースデー・ワンダーランド』は完成度がかなり高い傑作の部類に入るアニメ映画なのだが、それを認めた上でも、自分がノレる映画ではなかった。自分はダッーとやってバーっとやる刺激物がたくさんある映画が大好きだからだ。「それじゃ、お前はどうしてこれを紹介しているの?」と問われれば、このアニメ映画の魅力が充分に伝わっていないのではないのか?という妙な義務感でこれを書いているだけだ。だって傑作なのにGWなのに自分を含めて僅かしかいなかったんだもの……。

  

追記:ここからはネタバレになります。読みたい方は反転して読んで下さい。

どうやら前回で緑の風の女神はどうやらアカネの母、ミドリらしい。ラストでアカネがプレゼントされる刺繍は冒頭ですでに表れているからだ。異世界とアカネの世界との時間差が1日1時間の差を考えるのなら、それは容易に想像できる。そして実はこのアニメ冒頭からしてヘンなのだ。アカネがあきらかに仮病で学校を休んでいるのをミドリ咎めないし、それどころかアカネのために朝食も作って後に平然とチィおばさんにお使いを頼むところから、どうやらコレが起こることを予想していたフシがある。だからミドリも誕生日前にこの現象が起きたらしいのが察せられる。そこから、おそらく母ミドリもアカネの年頃に同じ悩みをもっていて、異世界へ行くことで自分を変えることができたらしい筋が見えてくる。だから原作タイトルではなく映画タイトルの『バースデー・ワンダーランド』は母から娘へのプレゼントの意味を含んでいるのだ。

 

参考

映画『バースデーワンダーランド』感想&評価! 原監督の動きのこだわりとイリヤのデザインの魅力が融合し、視覚的に楽しいアニメ映画に! - 物語る亀

『バースデー・ワンダーランド』不遇のわけと超応援したい理由を解説する(ネタバレなし+ネタバレ感想)

 


映画『バースデー・ワンダーランド』30秒予告【HD】2019年4月26日(金)公開

  

 

バースデー・ワンダーランド オリジナル・サウンドトラック

バースデー・ワンダーランド オリジナル・サウンドトラック

 

  

新装版 地下室からのふしぎな旅 (講談社青い鳥文庫)

新装版 地下室からのふしぎな旅 (講談社青い鳥文庫)

 

  

わが青春      松竹大船撮影所

わが青春 松竹大船撮影所

 

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画備忘録へ
にほんブログ村

映画(全般) ブログランキングへ