ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
平清盛の厳島詣の留守を狙って起された平康の乱で、焼討をうけた御所から、平康忠は上皇と御妹上西門院を救うため身替りを立てて敵を欺いた。院の身替り袈裟の車を譲る遠藤武者盛遠は、敵をけちらして彼女を彼の兄盛忠の家に届けたが、袈裟の美しさに心を奪われた。清盛派の権臣の首が法性寺の山門地獄門に飾られ、盛遠は重囲を突破して厳島に急行した。かくて都に攻入った平氏は一挙に源氏を破って乱は治った。袈裟に再会した盛遠は益々心をひかれ、論功行賞に際して清盛が望み通りの賞を与えると言った時、速座に袈裟を乞うたが彼女は御所の侍渡辺渡の妻だった。
映画.comより引用
今回はネタバレスレスレの解説モード。
今年は日本中世前期のドラマがテレビでのムーブメントらしい。
アニメだと『平家物語』。ドラマは『鎌倉殿の13人』。
だったら本作こと『地獄門』を語るには、今しかない。だって、『平家物語』と『源平盛衰記』にある挿話「袈裟と盛遠の物語」を菊池寛が『袈裟の良人』を映画化した作品なんだから。
そして、第7回カンヌ国際映画祭グランプリ(当時)、1954年ロカルノ国際映画祭金賞、第27回アカデミー名誉賞&衣裳デザイン賞、第20回ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞を受賞してきた作品にも関わらず黒澤や溝口や小津や成瀬に比べて、本作とコレを撮った衣笠貞之助についてはあまり語られない。
とは言っても自分も彼の作品歴からチョットかじったくらいなんだけどね。
実は、最初は前衛作品『狂った一頁』をやろうと考えたのだけど、どうも掴みどころが見つからないので、やむを得ず本作に。
まあ、そうゆう事だ。(強引)
さて、本作は大映の初カラー作品なのだが、-- ちなみに日本初のカラー作品は松竹の『カルメン故郷に帰る』(1951) -- 物語とドラマはシンプルだ。何せ、今風に言えば「ストーカー男が人妻を奪おうと画策する」だし、「人妻の気高さに自身の欲望を窘められて改心する」なのだから。
ぶっちゃけ内容はヨワイヨー!
なのにカンヌでグランプリを受賞したのは仏版Wikipediaによると評論家であり映画監督でもある芸術家のジャン・コクトーがどうやら衣笠監督の大ファンだったためにゴリ押しで受賞させたからで、必ずしも審査員が一致したわけではなかった。それでもコクトーは「世界でもっとも美しい色」と評して本作を絶賛している。
それではコクトーが絶賛した「美しい色」とは、いったい何だったのか?それを当て推量してみれば……
黒が黒として写っている。
ナンジャそれ。と思ったかもしれないが、カラーフィルムで 被写体と一緒に綺麗な黒を撮るのは難しい。そのままだと被写体が綺麗に写らないし、被写体に照明をガンガンと当てると光が乱反射して被写体をとりまく黒が締まりが悪くなる。だからどこかで折り合いをつけなければならない。
ハリウッドなら、オープンセットに暗幕をかけて撮るいわゆるアメリカの夜や、スクリーンや合成バックの前で演技をさせて前撮りした夜の風景をはめ込むなんて手間をかけてクリアに撮るけど本作ではそんな事はしていないのは一目瞭然。
だけど、ココでは黒と色を別々のレイヤーとして光をデフォルメすることで、そのコントラストが見事に映える結果となっている。
明度と彩度を低めにして撮っているので、モノクロ風にカラーを撮った感じ。
だから、本作は露出に恐ろしいくらいに気を遣っているのは確かだ。その絶妙な色具合バランスがコクトーに気に入られたのかもしれない。
それに、本作の年代あたりはカラー作品といえばまだ見世物要素が強かったはず。例えるなら3D映画と同じ立場だったと考えてもよい。それが芸術作品として出されたのは意義のあった事なのかも知れない。
そして、『狂った一頁』を撮った衣笠監督に関して言うなら、これもまた前衛な作品だった事になる。だって、リアルじゃないし、誰もこんな撮り方をしていなかったから。
以上。
余談だが、現在配信で観ることができるのはアマゾンプライムビデオとU-NEXTだが、前者がリマスター版でないの対して後者はオリジナルネガからリマスターされたものなので、可能ならそちらで観よう。
VODで鑑賞。