ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
人気RPG『二ノ国』シリーズをアニメーション映画化。車椅子生活を送る高校生ユウは、学校でトップクラスの成績を誇る秀才で、バスケ部の人気者ハルと、ハルの彼女コトナとは幼なじみだ。ある日、ストーカーに襲われたコトナを助けようとしたユウとハルは現実世界と並行する魔法の世界<二ノ国>に引き込まれる。そこでコトナとそっくりなアーシャ姫と出会う。ユウはアーシャにひかれていくが、ハルはこの現実を受け入れようとはしなかった。そんな2人に究極の選択を迫まる時がやってくる。
百瀬義行監督
このアニメ映画はハッキリ云って失敗作なのだが、その大部分が脚本にかかわるところが大きい。だから今回はそれを中心に語って、最後にチョットだけ倫理的な問題点を語って締めたい。-- ちなみに自分はシリーズは未プレイで、ゲーム機もプレステ2で止まっている。
観た人なら解ってくれるだろうが、この映画はコトナという少女をめぐるふたりのユウとハルという少年の物語でありドラマだ。だから、主人公がふたりなのだ。
だったら通常はユウとハルの絡みを中心にするか、交互に視点を変えて描写すべきなのに、語られる視点は主に車椅子のユウになっている。だからふたりの葛藤のポイントが曖昧になってしまってクライマックスが全然盛がらない。
それなら、「謎解きミステリーなのだろうか?」と考えても物語が進むにつれて新たな要素をドンドンと継ぎ足されてくるから、もう「何が何やら分からん!」状態になり最終的には( ゚д゚)ポカーンと虚脱状態になってしまう妙ちくりんなつくりになっている。
何よりもこの脚本での問題は、観客を感動に導くために必要で、かつドラマに本来あるはずの伏線が存在しないのだ!
伏線とは『未来のミライ』の感想で映画『風の谷のナウシカ』を使って解説したとおり、クライマックスでの王蟲の大群にナウシカが立ち向かうシーンにどうして観客が感動できたかという件で……。
〇 ナウシカの指を噛むテトに声をあげたり逆らわずにテトを落ち着かせる。
〇 父を殺された怒りでトルメキアの兵士を惨殺する。
〇 死を覚悟したミト達にたいして、腐海なのにもかかわらずマスクを脱いでミト達を思いとどませる。
の三段階を得てこそクライマックスでのナウシカの行動に観客が何の疑念も抱かずに素直に感動できる流れになっている。逆に云えば上記の三つが無くて、いきなりあのクライマックスをやってしまえば、このアニメと同様に( ゚д゚)ポカーンになるに決まっている。
伏線とはドラマにとって必要不可欠な要素であり、テレビだろうが映画だろうが必ずある「仕掛け」だ。それがこのアニメにはない。
余談だが、伏線とはあくまでも観客の感動をある方向に導くために使うもので、SFやミステリーなどでよくいわれる「あれはそうゆう事だったのか!」と得心するのは感情よりも論理を優先させているので伏線というよりも布石というべきであって、仮にその境界にあるとしても伏線というにはあまりにも弱くて伏線四天王(俺造語)では最も最弱な立場だ。
本題に戻ると、ドラマによってはそんな伏線を使わずに感情を誘導できる媒体がある。ゲームだ。
ゲームは密に作られたフローチャートを作成して、それを分岐点という表記でプレイヤーに選択させることで感情を誘導する仕組みになっている。つまり自発的なテクニックになっている。観劇という受動的なテクニックとは真逆な感情の誘導方法だ。
つまり、このドラマは映画(テレビ)の文法ではなくゲームの文法で書かれているのだ。そうゆう意味で見れば、視点の不確かさも、あの超展開も納得はできる。
観客は選択が出ない他人のプレイを106分も見せられるハメになっているのだ。
さらに台詞もドラマのモノでなく、ゲームのモノで書かれている。例えれば普通に「因果」とすべきなのにわざわざ「リアルリアリティ」とかに書き直されたりしているところとかだ。そりゃストレスにもなる。
それなら画に魅力があるのかと思えば、やっぱり「どこかで見た感」が強くて新鮮味がないし、また動画としても面白みもない。ハッキリいってアクションがCGで作られた『ガールズ&パンツァー 最終章』にすら劣っているという体たらくだ。
最後に倫理的な問題点を書いておきたい。ユウの気持ちを表現するためだけに設定された車椅子や、悲劇を盛り上げるためだけに設定された腫瘍はあえて目をつぶる。
しかし、どう考えても設定の縛りでユウとハルは殺人をしている。それってどーよ!
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