えいざつき ~元映画ブログだったポエマーの戯言~

批評というよりも、それで思い出した事を書きます。そして妄想が暴走してポエムになります。

【ネタバレ無】蘇える70's、『ジョーカー』

お題「最近見た映画」

ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]

 

f:id:ko_iti301083:20191007192107j:plain

 

www.imdb.com

 

 『バットマン』の悪役として広く知られるジョーカーの誕生秘話の映画化。「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会の片隅で派遣会社の大道芸人として生計をたてながらコメディアンを目指すアーサー・フレック。しかし、生活はままならぬ自身も発作的に笑い出すという病気を患っていた。ある日、同僚から借りた銃がもとで会社をクビになったことから彼の日々が狂いはじめる。

トッド・フィリップス監督

 

お願い:余白の部分は反転してお読みください。

 

この映画で描かれるジョーカーは『ダークナイト』での「得体の知れない不気味さ」ではなく、「歪んだ社会の落とし子」として定義づけられている。一見すると過去作より親近感が強調された分、矮小化された感もするのも確かだ。ただし、視点という解釈から見れば、これが逆転する不気味さが見えてくる。この映画の不気味さもだ。

 

その前に、いきなり結論から話すと、傑作だと持ち上げるのも分かるし、ヴェネツィア国際映画祭最高賞金獅子賞  も受賞しているので、皆が ワッショイワッショイ♪ヽ('∀')メ('∀')メ('∀')ノ♪ するのも分かるのだけども、自分は「ちょっとの部分」が気になりだして、そんな気分になれなかった。つまりまた「いつものやつ」が発動したわけだ。もちろん、その部分は後述するけれども、そこのちょっとの部分が気になっただけで、高い評価するのは当然だとも考えてもいる。

 

表面上、ここで描かれているジョーカーは反体制ではあっても「究極の悪」でもない。アーサーはゴッサムの底辺で生きている社会的弱者だし、ジョーカーに覚醒 -- アーサーにとっては家路にある階段が自分の身の上を象徴する重荷として描かれているのに対して、ジョーカーとなった後にそこから駆け降りることで『アナと雪の女王』でいうところのレリゴー (Let it go.) した解放感を表現 -- した後でも、やっているのは個人的な鬱積の爆発でしかない。

 

それが、昨今の冨の極端な偏在からくる格差社会のヒーローとして祭り上げられるのは、作中に出てくるピエロのお面から、映画『Vフォー・ヴェンデッタ』や有名なハッカー集団アノニマスの被っているガイ・フォークス・マスクを模したのだとすぐに察することができる。1605年にイングランドで発覚した爆破テロによる政府転覆未遂事件火薬陰謀事件でのガイ・フォークスのことだ。爆破テロで刑に服された者が後世に英雄として称えられる流れを、この映画でもやっているのだ。つまりアーサーがカリスマヴィラン、ジョーカーとして覚醒してそう仕向けたのではなくて、ただの成り行きなのだ。

 

 

そこで冒頭の不気味さに戻ると、厄介なのは登場人物の一人であるソフィーとの絡みが実はアーサーの妄想であり、それまで一人称視点だったはずなのに、最後に起きる唐突なバットマンとの関りでソレが崩れる辺りで、この映画の構成そのものがオカシクなりはじめる。これが脚本の不備ではなく、意図としてそうしたのなら、導かれるのは「ジョーカー視点」であり、そうなると「アーサーはジョーカーになった」のではなく、「ジョーカーがアーサーに憑依した」と解釈するしかない。象徴として妙な踊りもしているし。

 

つまり、このドラマの核心は「誰にでも心の底に渦巻いているジョーカー」を引き出すことにある。とみるしかない。この映画の主人公はアーサーではなくジョーカーにあるとも思ってよい。「観客を含む皆が心の底に眠っているジョーカーの目でソレを見ている」のだと……。

 

こうした視点「個人的な視点」や「神の視点」ではなく「油断がならない悪意の視点」はドストエフスキーの『悪霊』からのモノだろうが、人物設定がインテリや若者ではなくて「笑い」をキーにして普通の中年でソレが描かれるのが、新しいのかもしれない。(実はこの辺りは自信がない)時代の疑惑と不信感が40代にも及びはじめている現実だ。

 

ただ、それをアメリカ70年代風を舞台にしてしまったがために自分としては妙な感情のしこりが残ってしまった。トッド・フィリップス監督のアメリカン・ニューシネマへの憧れが透けて見える感じがしたのだ。ここが、「ちょっとの部分」であり、「いつものやつ」だ。

 

やけに、そうした印象が残ってしまったがために「お前、ひょっとして、それ(ニューシネマ)がやりたかっただけじゃないのか?」という個人的な感情になってしまったのだ。

 

まぁ、いつものオッサンの繰り言だと思って下さい。

 


JOKER - Teaser Trailer - Now Playing In Theaters

 

 

Joker (Original Soundtrack)

Joker (Original Soundtrack)

 

  

  

謎とき『悪霊』 (新潮選書)

謎とき『悪霊』 (新潮選書)

 

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画備忘録へ
にほんブログ村

映画(全般) ブログランキングへ