ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
今日のポエム
明かさない戦い。
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
そして今回のキーワードは
ハードボイルドはやめい!
今回はネタバレスレスレ。
物語は個人の情報がデータベースとして記録されて権力だけが自由にそれを読み取ることができるシステムで重犯罪が無くなった世界で連続殺人が起こり、そこで刑事である主人公がデータベースに記録されていない匿名 (ANON) 女の正体を探るために捜査をはじめるが……思いもよらない展開へとなってゆく。
感想から先に言っちゃうと「まあまあ」。
そして、付け加えると本作は『ガタカ』(1997)『TIME タイム』(2011) を撮った監督らしくない。ニコル監督作の主人公は当事者視点が主なのだが、本作ではドラマの基調を捜査を主にしたハードボイルド風にしている。 -- だから、主演は『三つ数えろ』(1946) のハンフリー・ボガードを連想させるクライブ・オーウェンを充てている。(画像はIMDb)
ために、視点が若干ブレたために、さらにドラマそのものがブレてしまった感が強い。
それでも何のドラマをやろうとしたのかは分かる。これはネットからプライバシーを守る「忘れられる権利」をドラマにしているんだと。
「忘れられる権利」とはネット上にある、個人情報、プライバシーの侵害、誹謗中傷を削除する権利で、EU (欧州) では法令化され、アメリカではシステムとして存在しているが、日本ではまだ浸透されていない新しい人格権である。これは別れた元パートナーが腹いせに裸の写真等々をネットに拡散させるリベンジポルノを知っている人なら、この概念にピンとくるかもしれない。
また、最近はネット上でプライバシー情報がマーティンングに組み入れられたシステムになっているために、購買意欲をかき立てるため、何かをきっかけにアルゴリズムが行動を誘導するシステムになっているので、自由意志だと本人が行動していても、実はコントロールされている仕組みが作られている。-- これはNetflix映画『監視資本主義:デジタル時代がもたらす光と影』(2020) で分かりやすく語られている。
そういった事を本作では風刺 (寓話) として描いている。だから、ラストのANONのセリフも、その流れで解釈すれば自らの人格と自由意志を守る。という意味ですんなりと理解はできる。
ただ、やっぱりイマイチなんだよな。
大体、監督のアンドリュー・ニコル作品群から見えてくる資質は、早い話が微低温の雰囲気映画だ。スリルは出来てもサスペンス演出は無いに等しいし、ケレン味も独特なビジュアルにずっと頼っている。そして正直それ以上の引き出しは持たない印象がある。
だから、一番の見所は毎作品で繰り広げられる風刺の部分になるが、その部分が本作では、その展開から、どうしてもアニメ(映画とシリーズものも含めてすべて) 『攻殻機動隊』と被っているので人によっては「人形使い」とか「笑い男」とすぐに連想していまい、新鮮さが感じられないという分の悪さがある。
だから本作は、ハードボイルド風では無く、いつものニコル作品どおり、あらゆる個人情報がデータベースとして吸収される世界で、それに抗うため自らの個人情報を全て消去ししようとする者とそれを食い止めようとする男との闘いを主にして描けばいつもの作品のキレになったのに。
そう、『ガタカ』みたいに!
おそらく似た展開なので意識的に避けたのだろうけども……でも、なぁ。
VODで鑑賞。
Anon | Official Trailer [HD] | Netflix