ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
今日のポエム
所詮は負け戦
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
そして、キーワードは。
ドキュメンタリータッチ!
今回はネタバレ無しの小難しい解説モード。
本作は実際にあったアフガニスタン戦争におけるカムディシュの戦いを題材にしたノンフィクション『The Outpost: An Untold Story of American Valor』を基にした映画化だ。(自分は未読)
カムディシュの戦いとは2009年10月アフガニスタン北部の谷間に存在したキーティング前哨基地で起こった戦いで、新たに基地に赴任した山岳地帯の特殊作戦にたけた二等軍曹 -- 本作ではスコット・イーストウッド演じる --でさえ恐怖したヒンデュークス山脈の地形で、やがて起こる53人の米兵と400人のタリバンとの熾烈な戦いを描いている。そして本作を観ているとアメリカが辛うじて勝利している印象を受けるが、実は基地を急襲したタリバンの大勝利になっている。
本作を観た者なら、そこに基地を作るのがどうかしている。の感情に誰もがなるだろうが、それは、もちろんそれなりに理由がある。戦略の基本としてある補給線の確保と、アメリカのアフガニスタン戦争独自の対テロ戦争の戦略、そこに住む山岳部族との有効的な関係を築くことで、テロへの抑止効果を狙った作戦もあったからだ。-- 本作でも、オーランド・ブルーム演じる大尉が、それをやっているシーンが描かれている。
アフガニスタンは複雑な多民族国家であり、そこにある特定の民族(部族)の地に基地を構えるという事は他の民族からも敵視されるという事でもあり、何よりタリバンに攻撃されるので、不干渉地帯である場所に基地を構えなければいけない事情と背景がある。そして、本作だと当時のアフガニスタン大統領から戦略的に必ず味方にしないといけない重要な場所だと強調されたからでもある。-- 因みに、本作では、登場人物どおしが、顔に布を被せ上から水をあびせるウォーターボーディング(水責め)のシーンをしている遊びを挿入することで、前哨基地でも拷問が行われている事実を暗に示す描き方もしている。
だから、本作の見所は二つだ。一つ目はもちろん400人のタリバンと53名の米兵との戦いだが、二つ目は、それが起こる前の前哨基地での日常を垣間見るところだ。だから前半はドキュメンタリータッチで進行する。
映画でドキュメンタリータッチと言ったら基本は二つ。
A: 撮影を手持ちカメラ(または、そんな風) で撮る。
B: 編集はカットの流れを意識しないで繋ぐ。
この二つだ。
Aは、そのままなので省略するが、Bは少し説明が必要だろう。
映画は基本カットとカットの繋がりであり、それをひとつの形にするのが編集なのだが、それをそのまま繋いで作品することは滅多に無い。例えば、さっきまで手を上げていたのに次のカットでは下がっていたり、右側にいたのに次のカットでは左側にいたのでは繋がりが悪すぎて違和感で居心地が悪い。
さすがにそこまで極端な繋ぎは存在はしないが、それでもカットをただ繋げただけでは、スムーズというよりもゴツゴツした印象を観る者に与えてしまう。だから、そんなのが多い場合、カット繋ぎの間に数コマ両方の画面をダブらせるディゾルブ(オーバーラップ)の編集技法をする事で、これで印象をゴツゴツからスムーズに変えて観ている者の印象を操る事ができる。つまり、本作に限らず映画作品内で、このディゾルブしないでゴツゴツとした(編集)のがが多いのが、ドキュメンタリータッチと呼ばれているモノの正体だ。-- 余談だが、本作もそうだが、一般の興味を搔き立てるために予告では、よく一瞬だけ画が暗くなるフェードイン・アウトの編集が良く使われていたりもする。
そして、本作では後半の戦闘シーンなどで『プライベート・ライアン』(1989)以降に繁盛に使われるようになったコマ落としの技法で臨場感&緊張感を演出している。ドキュメンタリータッチと共に本作はその組み合わせの妙味で、その面白さが成り立っていると言っても良い。
今回はちょっと込み入った話をしたが、そうしないと本作の魅力が語れないのであえて書いてみる事にした。なんせ今年のベスト候補なので。
劇場で鑑賞。
The Outpost - Official Trailer