ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
今日のポエム
それは白人の物語
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
そして、キーワードは。
写実と寓話!
今回はネタバレ無しの解説モード。
今年のアカデミー賞は象徴する出来事として本作が作品賞にノミネートされていなかった事だ。従来なら本作は受賞はともかく監督&作品にノミネートされても良いのだが、誰もが知ってのとおり、そこには入っていない。つまりは白人の慣習による視点が弱くなり、より多様な視点へとシフトしたと考えるべきなのかもしれない。
そして、本作は米白人に向けて作られている作品だ。ポーレット・ジルズの小説『News of the World』を原作にしている。(自分は未読) 1870年の南北戦争後、退役軍人で南部各地で新聞のニュースを読み聞かせる事を生業としている男が、旅の途中で先住民族に育てられた白人の少女に出会い、彼女を親族に引き渡すために一緒に旅をする過程で色々な出来事に遭遇する流れになっている。
このドラマの背景には、誰もが指摘するとおりアメリカ社会の現在を背景にしている。自分も『ターミネーター: ニューフェイト』(2019) や『ナイブス・アウト』(2019) でも書いたので繰り返しになるが、将来アメリカ社会の人口比が非白人層が白人層を上回る予想が確定されているからだ。つまりは白人層はアメリカの支配層から転落する未来が確定されている。昨今のアメリカの急激な社会変化は、この現実を頭の片隅に置かないと理解しにくいところがある。
それに本作は南北戦争後の南部を舞台にしているので、どうしたって、「分断から融和」へのメッセージを含んでいるのは間違いない。そして、少数派になってゆく白人層が、「そんな世の中をどのようにして生きてゆくのか」を説いているのは直ぐに分かる事でもある。だから、作中にフェイクニュースで民衆を操ろうとするトランプ前大統領のような人物を登場させて、対比として「嘘よりも真実の方が大切である」を説いて、さらに砂嵐のシーンで先住民たちをチラリと出す事で、白人層のこれからは非白人層との連帯をしなくては社会などは成り立たない現実をさり気なく示す。そうゆう寓話を描いてゆく。
ユニークなのはそれを撮ったのは『ボーンシリーズ』特に『ボーン・スプレマシー』(2004) で名を知られるポール・グリーングラス監督だった事だ。
好きな作品はロマンチシズムやヒロイズムを廃したイタリアン映画のネオリアリズモ・新現実主義や政治映画のコスタ・ガブラの作品を上げているグリーングラス監督作品の特徴を簡単にまとめると写実的と言ったところか。ここでの写実的とは、ある事柄 (シーン) を登場人物の感情を楽曲や小道具・大道具やセリフ回しなどで描かず、ただアクションとリアクションのみで描くやり方だ。
なのだが、グリーングラス監督のは少しズレていて、それを本来の社会派と呼ばれている作品だけではなく、ハッタリとケレン味の塊が連なっているアクション&スリラーのジャンルにも写実的描写を組み入れてやったところが観る者に新鮮さを感じさせているところがある。特にアクションシーンに新たな風を巻き起こした。
その写実的な監督がアメリカンコスチュームプレイの西部劇を、それを現代の寓話として撮ったのだ。だからある意味、グリーングラスらしいし、らしくない。という絶妙な塩梅の作品が出来上がった。自分として監督のベストだと思っている。
けれども、その絶妙さが『ミナリ』や『シカゴ7裁判』の分かりやすさに及ばず、映像としては『マンク』、『ノマドランド』にまでは至らなかったのだろう。刺身 (写実) とカボス (寓話) との組み合わせのとても良い味わいなのに。
とはいえ、自分も駄菓子が好きなタイプなので、「みんなが誉めているから、自分はいいかな」な気持ちでいたのだが、今年ノミネートさえもされなかったので、多様性を題材にした作品としてだけで評価されるだけでは、あまりにもかわいそうだと思い、今回はちょっと書いてみた。
VODで鑑賞。