ここでは題名と名称を恣意的に表記します。[敬称略]
今日のポエム
夢のタッグマッチ
映画とはポエムです!ポエムとは映画でもあります。それでは大いにポエムちゃいましょう!
そして、キーワードは。
怪獣プロレスのはじまり!
今回はネタバレチョコッとありの解説モード。
こっちの勝者はネタバレしても大丈夫!
勝手に不定期キングコング特集。今回はキングコング対ゴジラだ。
本作は『ゴジラの逆襲』(1955) から7年ぶりのゴジラ映画であり、アメリカのRKOからライセンスを得て登場させた本物のコング -- キングコングに関しては許諾を得ていない模倣作が多い -- との闘いに日本中が沸きに沸いて封切り時動員数1000万人を超えたと云われる大ヒット作だ。
因みに、その動員数1000万人とちょっと前までの大人映画料金1800円を単純に掛け算してみると、約180億円。単純に1000円と考えても100憶円なので、ジブリや鬼滅ほどではないにしても、大ヒットなのはすぐに分かるし、当時の国民的映画だったのが察することができる。もちろんゴジラ映画では最高金額だ。その背景には当時テレビで一大ムーブメントを起こしていたプロレスがあり、そこに架空とはいえ日米夢のマッチメイクが組まれたのに日本中が興奮したのは想像できる。
物語は、ある製薬会社の自社提供番組のテコ入れのためにライバル会社の極地探検の向こうを張って南島の島に伝わる怪物の正体を探りに二人の社員が赴くと、そこには、あのキングコングが棲んでいた島で、社員はそれを日本へと持ち込もうとするが、そこに長い眠りから復活したゴジラが表れて。の流れになっている。
さて、本作はいわゆる怪獣プロレスのはじまりと言われている作品なのだが、その見方は単純な怪獣アクションではなくて、当時の世相(風俗)を皮肉ったブラックコメディ・黒喜劇となっている。
つまり当時の視聴率で一喜一憂する大衆をプロレス仕立てにする事で揶揄・皮肉っているのだ。
本多猪四郎監督、第一作の『ゴジラ』(1954) の記事でも書いたので繰り返しになるのだが、一作目のゴジラは、ゴジラの是非を巡って討論になる様に構成されている。つまり、「ゴジラを倒すと主張する者」と「ゴジラを保護すべき」だと主張する者との対立、また「ゴジラに家族を殺された被害者」の立場に立つ者、そして「ゴジラよりも恐ろしい物を作ってしまった」者。その4者の間にヒロインを動かすことで、ゴジラという存在の是非を問う構成になっている。(画像はIMDb)
そうした視点を入れている第一作を考えれば、本作でもゴジラを担当した本多監督が、その批評的な視点を入れないはずはなく、だからちゃんと入れている。具体的にいえば製薬会社の宣伝部長役の有島一郎だ。(画像はIMDb)
本作の、はた目から見てハチャメチャな彼の行動が、当時の大衆を戯画化して描いているからだ。
この見立てが成立する背景にはプロレスやボクシングなどの格闘技が1953年2月からはじまったテレビ放送と連動して大衆に求められ認められて浸透していった過程がある。1956年の経済白書が「もはや戦後ではない」と宣言。それは経済成長に乗った日本の姿であり、再び自信を持ち始めた大衆の心境が変化したからでもある。小津安二郎監督『東京物語』(1953) もその辺りの作品だ。
それを端的に言えば、敗戦の負け気分を持っていた日本人が西洋人をスポーツで打ち負かすことで留飲を下げる機会をテレビが与えたからでもある。「俺たちは欧米を打ち負かす力を得た」自負であり誇りが芽生えつつあった時期だ。
つまり、経済成長とテレビとプロレスはほぼ連動して歩んで来た経緯がある。
その象徴的なキャラクターこそが、本作の有島一郎なのだ。だから、彼がはっちゃければはっちゃけるほど、それは当時、テレビの前で数々の戦いに熱中した、大衆を象徴している事になる。
でも、そんな映画が大ヒットして国民的映画の立場になった。ここでの痛快さはそこにある。何故なら、観た人ならピンとくるだろうが、本作では本当の勝者が分からないからだ。つまり簡単に溜飲が下がる気分にはなれない。だから揶揄&皮肉。
でも面白い!そうでなければ、こんなに大ヒットなんてするはずもないからだ。
もちろん、世相(風俗)を批評する部分は時間が経つと腐ってゆく。本作も、それに倣い、そのあたりは腐って朽ち果ててしまって、今でも残っている芯のところが、つまり、キングコングとゴジラと有島一郎が今でも輝いているのである。
ぶっちゃけ、そこだけでも面白いし!
また因みに本作は力道山とルー・テーズの試合を基にしたらしい。でも、自分が思うに力道山→日本→ゴジラのイメージではない。どちらかというと力道山→キングコングのイメージが近いと言っても良い。(画像はWikipediaとIMDb)
なので、ライセンスの絡みがあるとはいえ、本作のマッチメイクが単純な「欧米を打ち負かして溜飲が下がる」系の作品ではないことが見て取れるが、当時の日本人の狂騒を描いたのなら、そこは微妙にずらしてきたのかもしれない。
そして、自分としてはゴジラの方は力道山(木村正彦のタッグ)がルー・テーズの次に戦ったシャープ兄弟、特に弟のマイク・シャープを基に本作のゴジラをデザインしているのではないかと邪推している。(画像はIMDbと英Wikipedia)
ほら、ソックリでしょ!(強弁)
おそまつさまでした。
とりあえず『ゴジラ』(1954)の感想らしきものを置いときます。
参考:
VODで鑑賞。
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